第36話 目撃

「やっぱりエリーは流石よね。」

「ありがと。ミリア。」

学年初め。去年の復習テストが行われ、その結果が貼り出されていた。


筆記は私が一位。二位はリリアかと思われたがルードだった。

実技に関してはミナとルードが同率一位、ミリアが三位という結果になった。私は九位とどうにか十位以内に食い込むことは出来た。入学試験とは違い、マラソンなどの体力メインの実技他には乗馬なんてものも混じるようになった。


「ルード様も凄いですよね。実技はミナさんと並んで一位。筆記もエレノア様に次いで二位ですもんね。私も抜かされてますし。」

リリアが呟いた。


「私も実技で差をつけられないように頑張らなくては!」

「私はもう差をつけられたんだけどね…」

ミリアが不服そうに言った。


「すまません!すみません!」

ミナが慌てて頭を下げた。


「ミナ。そんなつもりで言ったんじゃないから。謝らないで。私の努力不足だし。

ところで、エリーも実技の成績が良くなかったみたいだけど。めずらしいわね。」

「露骨な話題替えに私を使わないでくれるかしらね。」

苦笑しながら私は答えた。

「ちょっと考え事してて。そしたら、乗馬で落馬しそうに…落馬はしなかったんだけどね!

結構減点されたみたいで。」


「普通に危ないわよ!落馬したらどうするのよ!」

ミリアに凄い剣幕で怒られた…


「イザベラ先生にも同じこと言われたわ。

『エレノア様!ちゃんと集中してください!

乗れない人が落馬しかけるならまだしも、貴女はなまじ乗れるのですから気をつけてください!!

落ちることを想定して乗っている人より単に気が抜けてる人が落馬したときの方が怪我がひどいことが多いんですからね!』って…」


「気を付けなさいよ…」

「気を付けてください。

考え事って何か気にかかることでもあったのですか?」


「まぁね。でも大したことじゃないから気にしなくていいわよ。

それよりもあれも復学してるのよね?」

リリアの問いかけを私は適当に誤魔化した。


「あれですか…あれでしたらかなり成績を落としていましたよ。実技もそこまで良くなくて、筆記に関してもあれだけ授業は聞かないは、停学してるはで言わずもがなという結果でした。」

「そんなにひどいの?」

ドーランと言えどプライドは高いから家で必死にやって成績だけ取るみたいなことをやるかと思ったがそうでもなかったらしい。

私はまだ彼を過大評価していたのか……


「あのままだと来年もAクラスを維持するのは無理かなってくらいですけど。」

そのミナの言葉に、もちろん私たちは全員大喜び。今年さえ我慢したら学院のクラスで顔を合わせずに済む!!


「喜ぶのもいいけど。来年あなたたちもあれと一緒にクラスが落ちるなんてことがないようにね。」


いっそのこと妨害でもしてやろうかしら…

もし来年も同じクラスだったら嫌だしね。

私たちのことを殺そうとしたくらいだから、ちょっとしたことならあっちに文句を言う権利なんてない!でも妨害といっても中途半端に陰湿なことはしたくないかな。だからといって、役員の権限を使って何かするのも違うと思うし…


「エリー。何か悪い顔してない?」

どうも私は考えていることか顔に出るらしい。


「やるなら上手くやりなさいよ。」


あくまでも上手くやりなさいなのね。彼の人徳の高さが伺える…


「そうさせてもらうわ。ところで、今からどうする?」


「そうよね。お昼にはまだ早いし…

一度くらいミナと打ち合ってみたいのだけど。訓練場に行ってもいいかしら?」

「…私とですか?」

ミリアの言葉に驚くミナ。

「そうよ。手を抜いたら承知しないわよ。」

「え、え~と…」

ミナが困った様子で助けを求めてこちらを見てくる。


「ミリア。あなた何だかんだ負けず嫌いよね…

そういえば、二人は授業でも打ち合ったことはないのよね。」

実力主義を謳う学院であるが、実際は貴族と平民が揉めないように一対一での試合等では貴族同士、平民同士で行うなど多くの配慮がなされている。武学競技会でもない限り貴族と平民が試合を行うのはほとんどない。そして昨年の競技会でもミリアとミナが当たることはなかった。

「せっかくだからやってみればいいじゃない!」


「エレノア様!?

止めてくださらないので?」

ミナは困った顔で言った。


「別に本気でやっていいのよ。ミリアはそんなことしないと思うけど、何かあっても私が証言してあげるから。」


「じゃあ、訓練場の使用許可取りに行きましょうか。」



結局、ミナはミリアに押しきられる形で試合をすることになった。

「イザベラ先生。訓練場の使用許可をもらえますか。」


「構いませんけど、どういう理由ですか?」


「私とミナが模擬戦をするので。」

ミリアが言った。

「そうですか。防具はキチンと着けて…

え、ミリア様とミナさんがですか?」

「はい。そうですけど。」

「何かわだかまりがあるなら先生に相談していただいていいのですよ。」


「そういう他意はなくてですね、一度も試合をしたことがなかったので。ただそれだけです。」

「本当ですか?ミナさん。」

ミナは苦笑いで頷く。

わだかまりとかはないけど、無理やり押しきられたのだからそういう反応になるだろう。

「わかりました。

その代わり先生も立ち会います。何かあってもいけませんから。私もすぐに行きますので、服を着替えて待っていてください。くれぐれも勝手に始めないでくださいね。」


「わかりました。ありがとうございます。」

「ありがとうございます。」



更衣室で着替えて訓練場に向かった。

「あぁぁーー!!ふざけるなよ!!

なんで…あんだけやったのに……」


訓練場に入ってすぐ、叫び声が聞こえてきた。

思わずビクッとした。

「何事?」

声は素振り用のかかしが置いてある方からだった。そして声の主はルードだった。彼は滅茶苦茶に木剣を振っていた。ぶつけようのない気持ちを発散するように。


「エレノア・フォン・ルミナリアー!!」



え、私…?


「ねえエリー。考え事ってあれ?」

物陰からこそっと覗きながらミリアが言った。


「いや、あれは違う…あれは予想外……

どっちかというと考え事が今一つ増えたわ…」


彼の言いたいことも良くわかる。順位の上がりかたから考えても長期休みの間かなり必死で努力したのだろう。実技においても筆記においてもほぼトップまで順位を上げているのだから。それでも私に文句を言ったりすることがないのは大人だと思う。物には当たっているけども…


ルードのことはそのまま見なかったことにしてその場を後にした。


ミリアとミナの手合わせは無事に怪我もなく終わった。勝負はミリアの勝ち。実力が拮抗していたこともあり、私から見てだがミナが手を抜くこともなくというより出来ず、ミリアも満足の結果に終わった。

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