第35話 クレアさんとの関係
「ご苦労様。今年も無事に終わったわ。」
「お疲れ様でした。クレアさん。」
建国祭が無事に終了した。ハプニングらしいハプニングも起こることなく、子供特有の食べ物の取り合いで喧嘩が起こったくらいだ。
そして、私たちは学院で生徒が参加した建国祭の片付けに勤しんできた。
「まさか、また新しい食べ物を持ってくるとは思わなかったわよ。」
クレアさんも新しくレシピを持ってきたスイートポテトを絶賛してくれた。
「ああ!スイートポテトですね。
領地に帰ったときにサツマイモを焼いて食べたのですけどね。その時にこんな味のケーキがあったらおもしろいかなと思いまして。形も一口サイズの方が取りやすいですものね。」
私はペラペラと嘘八百を並べ立てた。もちろん、前世であった食べ物ですなんて言えないからだ。
「でも、貴女のお陰で今の役員の株はかなり上がったわ。ところで、あのレシピいただけないかしら。」
「申し訳ないのですけどレシピは販売することになっていますので。」
私は丁寧に断った。おそらく家でも作りたいのだろう。しかし、レシピを販売すると決めている手前、クレアさんだけを特別扱いは出来ない。レシピを早く売って欲しいということくらいなら融通しても構わないと思うけれど。
クレアさんは少し顔を曇らせたが、すぐに笑顔に戻った。
「レシピとそれに関する権利を購入できないかしら。」
「はい!?
喫茶店等にはすでにレシピをおろしていますからそれは難しいと思います。」
私は驚きを隠せなかった。ということは、はじめの質問は自分の手柄として、レシピをばらまきたいということか?
「そう。ならいいわ。
目立ちすぎると、要らないところから反感を買うから気を付けなさいね。」
クレアさんはそれで話を終えてしまった。
ここまで感じの悪いのは初めてだった。
「片付けの続きやってしまいましょうか。」
さっきまでの事がなにもなかったのように、いつもの笑顔を貼り付けたクレアさんがいた。
もし、はじめの時点でレシピを無料で渡していたら私になにも言わず、公開したのだろうか。自分が作ったものとして。私が後で何かを言っても知らぬ存ぜぬを通すつもりだったのだろうか。
しかし、クレアさんはこんな感じだっただろうか?
私の中のクレアさんの像とは一致しなかった。
たしかに、彼女はまだ十二歳の少女だ。アルジエル派であることなんて関係ない。自尊心だってあるしそれを理性で抑えて、顔に全く出さないことなんて出来るわけがない。自尊心と言う意味では特に、優秀と称えられ役員の会長にまでなった人間だ。
それに、彼女が役員の会長であるにも関わらず、話題を作っているのが初等部の一年(今は二年だが)であることに思うことがあるのだろうけど。
私は今年はこれ以上目立つ行動は控えた方がいいのだろう。クレアさんの行動が目に見えただけで他の生徒もむやみやたらに刺激している可能性もある。
帰ってお姉様にクレアさんのことを聞いてみた。
何でも去年、武学競技会の総合にクレアさんは出場したらしかった。高等部以上の人間しか基本的に出ないのに、中等部の人間が出ると注目されていた。しかし、私が初等部にも関わらず出場し、苦戦しつつも優勝してしまった。クレアさんも準々決勝まで上がってきていたが、その注目を私が全部持っていってしまったというわけだ。
…てか、それは私のせいじゃなくない??
本来私は総合に参加する予定はなかったし、お姉様が無理を言って、参加することになって。で、手を抜いたら絶対に文句言われるって思ってやったのに……
いや、責任転嫁はよそう。この事を考慮しきらなかった私が悪い。ここまでのことをちゃんと考えて、話していたらお姉様たちだって私の出場を考え直してくれていただろう。最終的に出場すると決めたのは私だから。
それに加えパーティーの度に新しいものを持ってきて私が会長よりも目立つ、話題になるようなことをしてしまっているから、クレアさんにとって私が目障りな存在であってもおかしくない。
喫茶店から貴族に至るまである程度はレシピの販売が完了した。決まっていたことなのでクレアさんとの関係がどうであろうが関係なく済ませなければならなかった。喫茶店の方はミナやリリアに全面的に任せ、貴族の方は私とミリアが回った。実を言えば他にもお菓子の案があったのだがそれは今年中は出せないだろう。これ以上刺激したくない。
その後のクレアさんとの関係だが、私は役員の度にクレアさんをできる限り立てつつ行動した。クレアさんはと言うとあの時は本心が出ていたが、それでもすぐに本心を覆い隠していた。もともと本心を隠すことがちゃんとできる人なのだろうから、読みきれない部分も多い。今のところは初めてあったときと同じように関わっている。結局のところは彼女も子供とはいえ、内面は大人であったということだろう。
私としてもクレアさんとの少しでもよい関係が欲しい。打算的かもしれないが、将来的なことを考えても公爵家の令嬢である彼女との関係が重要になるだろうから。
彼女としても同様に、私と関係を持つことは重要であると考えているのだろう。
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