第34話 領地でお茶会
冬も終わり、雪が溶けだした。学院が始まるまでまだ時間があった。
今日はミリアたちが遊びに来ることになっていた。雪が降る前に手紙でやり取りをして、ルミナリア領に集まることが決まっていたのだ。ついでに、お父様は仕事のため雪が溶けてすぐ王都に向かっていった。お兄様、お姉様たちも別の貴族の友人のところへ遊びに行ったりと結構自由に過ごしている。
「三人ともいらっしゃい。」
「お招きに預かり光栄です。」
「お招きに預かり光栄です。」
「お招きいただきありがとうございます。」
形式的な挨拶だけ済まし、いつもの調子に戻る。
「三人とも一緒に来たのね。」
「リリアとミナが乗り合い馬車で来てたのを街に入る前に見つけて、そこから私の馬車で一緒に来たのよ。」
「だから、ミナとリリアも同じ馬車から降りてきたのね。ミリアたちはこっちでどうするの?
しばらくここに滞在して、学院が始まる前には一緒に王都に行くでしょ?
別にこの屋敷にも部屋はいくつかあるからそこを使ってもらっても、街の中の屋敷を使ってもらってもいいんだけど。お父様からちゃんと許可はもらってるから、そこは心配しないでね。
今お兄様たちもお友達のところに行っているから、この屋敷私とお祖父様たちくらいなのよね。」
「そうなのね。なら、お言葉に甘えてここに泊まらせてもらおうかしらね。
リリアとミナもそれでいい?」
「私たちは。でも、本当にいいんですか?私たちみたいなのが、こんなところに…」
リリアが少し不安そうにこっちを見ていた。
ミナも少し遠慮している様子だ。
「大丈夫よ。リリアたちのこともお父様に話してあるしね。」
話してあるというのは、つまり二人の身元はお父様が一度調べてあって問題がないという意味だ。リリアは商会を作るときに調べ、ミナは例の事件の時に調べてあった。二人とも実家自体もアルジエル派の貴族の領地のため、かなりすんなりと調べられた。調べたのはお父様だが。
ミナとリリアはその言葉の意図まですぐに汲み取ってくれた。
「でしたら、ご厚意に甘えさせていただきます。」
リリアがそう言い、ミナも一緒に軽く頭を下げた。
「君らがエリーの友達か。」
「お祖父様?仕事中では?」
「エリーの友達が来ることを聞いていたからな。」
その後、お祖母様もやって来て、一通り互いに紹介した。
お昼過ぎだった。
「せっかくだし、着いたばかりだけどお茶にしない?」
来客用の部屋に三人を案内する。
「もう少し暖かかったら外でお茶も出来るのだけどね。」
雪が溶けたとはいえ、まだ冬の終わり。外はかなり寒かった。
「室内にも花があるのね。」
「本当は温室でもあったらよかったんだけど、そうもいかなくてね。」
流石に何もないのは悲しかったので、室内用の植木鉢を作ってもらって、花を育てておいたのだ。この季節でも屋敷内の暖炉の暖かさがある部屋なら普通に育った。正確には適当な陶器のそこに穴をあけてそれを適当な陶器の皿の上に置いたものなのだが。
「失礼します、エレノア様。ルイーシャです。」
「入っていいわよ。」
ルイーシャがお茶とお菓子をテーブルの上に置いていく。
「ありがとう。ルイーシャ。」
ルイーシャはお辞儀をして一歩下がると、いつでも紅茶を、継ぎ足したり出来るようにその場で待機していた。
「エリー、これは?」
「食べてからのお楽しみ!」
まず、私から目の前のお菓子を一口食べた。
続いて、すぐにミリアも一口食べた。
食べた…食べた!?
私と、そしてミリアのお付きは頭を抱えて深くため息をついた。
「…ミリア。」
「…ミリア様。」
「そんなに甘くなくて美味しいわね。芋…サツマイモを使ったお菓子かしら。
ん?二人ともどうかしたの?」
私が出したお菓子はスイートポテトなのだが、今はその事よりも…
「ミリア、ちゃんと毒味をしなさいよ…」
「今日呼んでくれたのはエリーよ。大丈夫でしょ?」
「確かに大丈夫だけども…
もちろん、毒は盛ってないけど…
万一にも食べ物が傷んでる時のための毒味でもあるんだから。」
「そうですよ。ミリア様。
ミリア様に何かあったときに怒られるのは私なんですから。」
ミリアのお付きも愚痴ったというか、ミリアを軽く叱った。
「はい。ごめんなさい…
でも、これ美味しいわね。」
「ミリア…反省してない、わね?」
「外ではちゃんと気を付けてるから問題ないわよ。」
「まあ、いいわ。これからはここでも気をつけてちょうだい。絶対にないと思いたいけど、万一ってこともあるんだから。」
ミナとリリアも横でウンウンと頷いていた。
「で、お菓子の話よね。ミナ、リリアはどうだった?忖度なしで構わないわよ。新しいお菓子の味見を頼んでるのだから、率直な感想を聞かせてくれる?」
「これでも十分美味しいんですけど、お菓子という割にはあまり甘くないと言いますか…」
リリアがそう言っていると、ミリアの護衛が待ったをかけた。
「そうですか?
私はこれくらいの方が甘いけれど甘すぎず、くどくなくて好きですけど。」
「何であなたが会話に割り込んでるのよ…
ていうか、なんで食べてるの?」
ミリアが呆れて言った。
「まあ、いいじゃない。味見は多い方がいいんだし。」
でも、何で食べてるの?
後ろで待機してるから食べるタイミングはなかったような。
どうもルイーシャがおかわり、予備用として運んできていたものを渡していたらしい。それを身振りでルイーシャが伝えてきた。
「私も食べたいです。」
後ろから声がした。今日の護衛のリースだ。
「ルイーシャ。リースにもあげてくれる…
ルイーシャも食べていいわよ。」
今度は私とミリアが頭を抱えた。
最近思ったことだが、リースは意外に食べ物に目がない。
今日も私たちだけが食べているのだから我慢していたのだろうけど、ミリアの護衛も食べているのをみて、ダメ元で聞いたのだろう。
ついでに、このままだとリースが後でリアナに怒られることになるだろうからルイーシャにも試食してもらって。
「リース。今ここにいるのが、ミリアたちだから許されてるけど他では気をつけてよ。」
「わかりました。」
リースは真剣な様子でそう答えたが、お菓子を口一杯頬張っているので説得力がない…
「イース!あなたもよ!」
「わかりました。ですが、私だけが責められるのは納得いきませんので、お嬢様ももう少し気を付けていただかないと。」
ミリアのお付きのイースは、少しからかい口調で言った。
「イ~ス!!」
イースにからかわれたミリアは不服そうに頬をふくらませた。
「フフッ。仲いいわね。」
そんな二人のやり取りに思わず笑いがこぼれた。
「ずっと私のお付きをしてくれてるからね。」
主と従者という関係でありながら、こんな冗談を言い合えるのは本当に信頼してしている証だ。私もリアナやルイーシャ、そして最近からのリースとそんな幸福な関係を築けていると思っている。皆がいるこの生活がいつまでも続けばいいと思う。
「そろそろ本題に戻りましょうか。
今食べてもらったものは、砂糖をほとんど使ってないのよ。イースはこれが好みらしいけど、私もこれくらい甘すぎない方が好みなのよね。それでも、もう少し甘めの物も作った方がいいわね。リリアみたいにもっと甘いのを好む人も多そうだものね。」
「砂糖を入れて甘くするのもいいけど、蜂蜜の方がいいんじゃないかしら?
蜂蜜特有の香りがこれに合うんじゃない?」
ミリアが言った。ミリアの味覚はかなり鋭いので参考になる。
「これは貴族のパーティーとかで出すんですか?
商会の商品とするには少し弱いような。少ししたら簡単に作れそうですし。」
ミナが核心をついてきた。
なぜ、ミナが商会のことを話しているかというとミナがよく関わるのが私たちということもあって、次第にミナも商会の手伝いをしてくれるようになって、今にいたる。私もそこの問題点に悩んでいた。別に私たちが食べるだけでもいいのだが、せっかくなのでなにかに使えたらなと思っていた。
「そうなのよね…
作ったわいいけど。他の貴族にレシピを売り付けるくらいかしらね。でも、食べて美味しさをわかってもらわないとレシピは買ってくれないだろうし。」
「建国祭で生徒に出したら駄目でしょうか?学院の生徒は学院で建国祭に参加しますから。
大人と違って子供ならなんとなく味はわかっても、結局作れないでしょうし。でも、美味しかったなら食べたいとワガママを言うでしょうから。特に…」
「ストップ、リリア。それ以上はあまりよくないわよ。」
「失礼しました。」
まあ、言いたいことはわかった。某派閥の馬鹿子息女どもはもちろん、派閥の教育方針関係なしにパーティーに出てきたお菓子程度であれば子供が親にねだるのもよくある話だ。
「その案、いいわね。建国祭のメニューにこれを入れておけばいいのね。その後、貴族と王都のカフェにメニューを売り払えば。
でも、こんなに学院のイベントを私利私欲で利用して問題ないかしらね。
そろそろ目をつけられそうなのよ…」
「大丈夫よ。エリー。すでに目をつけられてるでしょ!」
「ミリア、フォローになってないわよ。」
「でも、そっちを気にしていても仕方ないんじゃない?
逆に、アルジエル派閥は面白い子供が現れたくらいにしか思ってないでしょうし。」
「そうよね。本当に駄目だったらお父様たちが止めに入るでしょうし、それでいきましょうか。
なら、甘さの調整するわよ。明日も味見頼むわよ!」
「それは…太りそうね……」
ミナとリリアも横で頷いていた。
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