第31話 エルセース教~5~
そのまま教会を後にし、その足で屋敷に戻った。
屋敷に戻るとすぐにお姉様に迎えられた。
「おかえりなさい。エリー。」
駆け寄ってきたお姉様はそのままの勢いで抱きついてきた。その勢いでバランスを崩しかけた私をスッとリアナが支えてくれた。お姉様のその抱擁はいつもより力が強かった。
「ただいま戻りました。お姉様。」
その日は前日のように収穫祭の出店で夕食を済ますことも出来たが、そうはせず、屋敷でお姉様と一緒にディナーを食べた。ゆっくり落ち着いて食べたかった。他愛もない話をしながら食べたかった。食事の担当は急なお願いだったにも関わらず、すぐに食材を用意して温かいディナーを一通り作ってくれた。なんだかんだでお昼を食べ損ねていたので、お腹はペコペコだった。
夕食中、教会での出来事を話すことはしなかった。いつもと変わらない、そんなに大事じゃない話をした。
夕食を終えて、教会であったことをお姉様に話した。話せない話もいくつかあったけれども、話せることは全部話そうと思った。時折、リースがやらかした話を織り混ぜながら。お姉様はその度にフフッと頬を緩ませていた。
私からの話が終わった。
「いくつかよくわからない話もあるけど、それは話せないんでしょ。
して、エリー。結局のところ、これからも今まで通り私たちと一緒に生活できるのよね?」
お姉様はこちらをじっと見てたずねてきた。
私は頷く。
「ええ。技術を商会で使えるようにするために時折こちらに来る必要はありますけど、それも商会の仕事と考えれば。それ以外は今までと何ら変わらないはずです。」
「なら、もう何が何であってもかまわないわね。エリーがこれからも一緒にいるならそれはさしたることじゃないもの、ね?」
「お姉様。」
「それにしてもリースの教育の方は大丈夫なのかしら?」
「ははは…それに関しては、今。リアナがみっちり指導しているかと。」
思わず乾いた笑いが漏れてしまった。
「リアナが見ているのね。それなら安心よね。リース、いい子なんだけど…」
「優先順位を決めたら、最優先事項以外、視線に入ってませんから……
毒味の件もしかり。」
「そうよね~。」
いつも通り、お姉様と話して、布団に入った。いつもと同じくお姉様と一緒に。昨日までと違うのは私の首にダイヤモンドの証がかかっていることだけ。それ以外はなにも変わらない日常。ダイヤモンドのネックレスを握りしめて私は眠りについた。
冬に差し込む前に領地に帰る必要があったので、二日後には本山を出た。それまではエルセス大聖堂の書庫に籠るか、お姉様出掛けるか。かなり楽しめた。
何日もかかってようやく領地に帰ってきた。 "私"がこの領地に来るのは初めてだから帰ってきたと言うのか、遂にやって来たというべきなのか。それははさておき。
領地の屋敷に着いた。王都にある屋敷とは異なりこっちの屋敷は領主の屋敷ということだけあってはるかに大きかった。
屋敷の門をくぐると、お父様、お母様、お兄様たち、そして"私"が初めて会うお祖父様にお祖母様が迎えてくれた。
そうだ。私には今家族がいる。相崎英莉奈と完全に決別する必要もないけど。今があるのだから、この幸せな生活があるならそれを噛み締めて生きていけばいい。
お祖父様やお祖母様はどんな人だろうか。
来年はどんな学院生活を送れるだろうか。
商会をどんな風に運営していこうか。
時間があったら、ミリアたちとどこかへ遊びに行けるだろうか。
「お父様、お母様、お兄様たち、お祖父様、お祖母様。ただいま帰りました。」
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