第26話 収穫祭の出会い
「すごいですね。お姉様!!
町の外まで出店が出てるんですね。」
「そうね。王都ではここまで大規模じゃなかったものね。」
「後で回りましょうよ、お姉様!!」
「もちろんよ。でも、まずは教会に行くべきじゃないかしら?」
「そうですね。収穫祭の熱気を見て忘れていました。」
エルセス大聖堂に向かい、エレノア・フォン・ルミナリアであることを名乗ると司教が出てきた。
「ようこそ御越しくださいました。エレノア様。私は司教のフレーンです。お見知りおきを。」
フレーンと名乗った司教は恭しくお辞儀をした。
「初めまして。エレノア・フォン・ルミナリアです。」
「わざわざこちらまで御足労いただきありがとうございます。本日はお疲れでしょうからお屋敷にご案内します。面会は明日いらしてください。」
「明日なんですね。」
「もしや、不都合でも?
本日でも可能ですが、いかがなされますか?」
「いえ、明日でお願いします。旅で疲れていたので本当に助かります。ところで屋敷というのは…」
「そこまで大きくはありませんが来客用の屋敷がいくつかあるのです。こちらにおられる間はそこをお使いください。」
「そんなことまで手配してくださったんですね。ありがとうございます。」
私はフレーン司教に案内されて屋敷に着いた。王都の屋敷よりは小さいにしても、少しの滞在には十分すぎる広さがあった。ちゃんと管理もされているようで掃除も行き届いていた。一通り屋敷の中を案内するとフレーン司教は帰っていった。
その後、私はお姉様たちと合流し、屋敷に戻ってきた。
「こんなお屋敷使わせていただけるなんてね。」
お姉様も大喜びしていた。
はじめは、適当に宿を取ろうかと話していたので、こんな屋敷を使わせてもらえることは警備の面から考えても本当にありがいことだった。
「でね、お姉様。お風呂があるんですよ!!」
「本当なの!?
ちゃんとしたお風呂なんて何日ぶりかしら。」
お湯で濡らしたタオルで体を拭いても体はあまりさっぱりしないし、行水もしかり。
そういうわけですぐさまお風呂に入ることにした。
「ああ~!!お風呂最高!!」
湯船もあったので本当に至れり尽くせりだった。久々のこのさっぱり感!!お風呂のありがたさを改めて噛み締めたのだった。
「お姉様、早く行きましょうよ。」
「慌てすぎよ、エリー。」
私たちは収穫祭の出店を回る準備をしていた。私の護衛はリースとリアナ。お姉様も護衛を二人連れている。
「それにしても本当に人が多いですね。」
「そうよね。昼はそこまでではなかったけど、日も暮れるとすごいわね。」
「ですね。こんなどんちゃん騒ぎが一月以上も続くらしいですから。」
「本当に盛大なお祭りよね。
エリー、ここで待ってて。色々買ってくるわ。」
お姉様はそう言ってどこかに行ってしまった。
私はキャンプファイヤーが焚かれている広場で待っていた。
「お隣座ってもいいですか?」
横を向くと少女がこちらを向いて微笑んでいた。歳は私と同じくらいに思われた。彼女にも護衛がついていた。結構いい身分の少女らしい。
「ええ、どうぞ。」
「ありがとうございます。
私の名前はカナリア・フォン・エレア。
よろしくね。」
エレア家…
確か、帝国の侯爵家だったはず…
「私はエレノア・フォン・ルミナリア。
よろしく、カナリア様。」
「お互い貴族なのだし敬称は要らないんじゃないかしら。
私のことは"カナ"でいいわよ。エレノア。」
「それなら私のことも愛称で、"エリー"と呼んでください。カナ。」
「わかったわ。エリー。」
「それにしても、カナはおもしろい人ですね。初対面でこんなに普通に話しかけてくるなんて。」
「もしかして、迷惑だったりした?」
カナは非常に申し訳なさそうな顔をした。
「いえ、そういうことではなくて…
身内や親しい間柄の人だけのパーティーとかなら、こんな風に話しかけることも話しかけられることもあると思うけど。こんなところで初対面の人に話しかけられるとは思ってなかったから。」
「同じくらいの年齢で、身分も同じくらいの人がいたから、つい。でも、迷惑じゃないならよかった。
それはそうと、ここには観光で来たの?」
「そうよ。お姉様と一緒に来たのだけど、今は食べるもの買ってくるって言って、どっか行っちゃったの。」
「話を聞くと優しそうなお姉様ね。ちょっとお転婆な気配を感じるけど…
私にもお転婆な友達がいたのよね…」
"いた"過去形だった。おそらくその友人はもういないのだろう。仲違いであれば彼女の性格上友人関係を再構築しようとするだろうから。
ボワッとキャンプファイヤーの火の粉が舞い上がった。収穫祭も盛り上がっているなか、彼女はその吹き上がった火の粉を見てビクッと体を震わせた。
「カナ。どうしたの?」
「楽しくない話を思い出したのよ。やっぱり火は嫌い。」
「私も火は苦手だわ。」
普段の生活に大きな支障はないものの、今日のキャンプファイヤーのような大きい火を見ると前に死んだときのことを思い出さずにはいられなかった。
「エリーもなのね。
面白くない話だけど聞いてくれる?
さっき言ったお転婆な友達はね、火事にあって亡くなったの。たぶん。私も。
それにね。」
彼女はそう言って服の袖を肘の辺りまでめくった。そこにはまだ痛々しい、変色した火傷の跡がはみ出していた。
私はその痛々しさに思わず引いてしまった。
「ごめんなさい。」
「別にいいのよ。見たことなければ当然の反応だから。これを見て『気持ち悪い』とかそんな言葉を吐いてくる人もいるから、そのくらいじゃ全然気にしないわよ。わざとじゃないでしょ?」
彼女は笑って見せた。
「顔とか普段服で隠れないところは無事だったし。着れる服に制限はあるけどね。」
「カナ、綺麗な顔だものね。」
「ありがとう、エリー。」
「エリー。買ってきたわよー!!」
お姉様の声が聞こえた。
「あ、お姉様。こっちです。」
お姉様はこっちに来て、カナに気付いた。
「エリー、お友達?」
「はい、先ほど仲良くなったカナって子です。カナリア・フォン・エレア。」
「ご紹介に預かりました、カナリア・フォン・エレアと言います。」
カナは軽く頭を下げた。
「私はクラリス・フォン・ルミナリア。このエリーの姉です。」
お姉様は色々買ってきたものを抱えたままで挨拶をした。
「お嬢様、そろそろ。」
カナの後ろで控えていた従者がカナに耳打ちする。
「私はそろそろ行くわ。話し相手になってくれてありがとう。」
カナは立ち上がる。
「せっかくだから一緒に食べないかしら?」
お姉様がカナに言うも、カナは首を横に振った。
「ありがたい話ですけど、この後人と会う約束があるので、ごめんなさい。」
「そう、こちらこそありがとう。楽しかったわ。」
私は言った。
「エリー。あなたとならお友達に…」
ゴーン ゴーン… ゴーン
彼女の最後の言葉は時刻を報せる鐘の音にかき消された。
なんとなく彼女が悲しそうな顔をしているような気がして、思わず言った。
「カナ、あなたとはもう友達よ。」
「ありがとう。」
カナは従者と共に歩いていった。
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