第27話 エルセース教~1~
「気持ち悪い…」
朝、目が覚めるなり私はひどい胸焼けに悩まされていた。
昨日、食べ過ぎたせいであることはわかっていた。
カナが帰った後、お姉様が買ってきたものを食べたのだが、手当たり次第色々買い込んできたらしく護衛の分もあるとはいえ、到底食べきれないほどの量を買ってきたのだ。しかも、お祭りの醍醐味で似たようなものを売っている店がいくつもあるのだが、ご丁寧にお姉様はほとんど同じ物をいくつも買ってくるということをしてくれた。
「あの、お姉様。」
「どうしたの?エリー。」
「美味しいものも多いのは嬉しいんですが…」
「あら、それはよかったわね。」
「ただ、いかんせん量が多すぎませんか?
私もうお腹いっぱいなのですが…」
「あら、エリーも?
私もなのよね~。」
その時はあっけらかんと笑いながら言っていたお姉様なのだが、すぐに。
「……駄目限界
もう食べれない…」
お姉様も限界を迎えた。
残してはいけないという義務感から無理をして食べ続けていたのだが、本当に限界…
「今さらなんですけど、別に食べきる必要ないんじゃないですか?」
食べ過ぎで苦しそうなリースがふと言った。
「そうですね。全員が貸していただいた屋敷から出払っているわけではないでしょうから。」
リアナもリースの意見に同意する。
「あ、屋敷に残っている人たちにお土産が必要ってことか!」
一応、他の従者たちも自由に収穫祭に行ってよいことになっているが屋敷の警備や荷物の管理があるので収穫祭に行けていない人も多くいる。
「はい。手を付けてないものは屋敷に持って帰りましょうか。」
「ねえ、エリー。」
「どうしたんです?」
「手を付けたものは食べきるのよね?」
「そうなりますね。」
「じゃあ、これは食べなきゃいけないのね…」
「お姉様……」
味見味見でなにも考えず闇雲に手を付けてしまっていたせいで、まだまだ少なくない量が残っていた…
「エレノア様、クラリス様楽しんでいらっしゃいますね。」
ルイーシャだった。
「美味しそうスね。」
横には新人メイドのメイラがいた。今はルイーシャの下でメイド見習いをしていて、そのうち私のメイドになる。
メイラは言葉遣いは適当。でも、器用に何でもそつなくこなす。人当たりもよい。
「あら、食べかけで申し訳ないのだけど、いかがかしら?」
メイラ、神!!
「メイラ!!
言葉遣いを気を付けなさい、主に対して失礼ですよ!
それに、そんなこと言って。主に物を催促してどうするんですか?」
あ~、ルイーシャ。それは駄目!!持っててもらわないと私たちの満腹中枢が困るの。
「ルイーシャ。」
「はい。」
お互いじっと目を見て。
私はお姉様が大量に買った、出店の食べ物をチラッと見た。
"お腹いっぱいでもう食べられないから食べて欲しいの。わかる?"
"わかりました"
私にはルイーシャの心の声がそう聞こえた。はずだったが…
「お見苦しいところをお見せしました。
メイラ、あちらに行きますよ。」
いや、ここで怒るな。私たちの目の届かないところで怒れってことじゃない。
あ、メイラを連れていかないで……
見かねたリアナがそっとルイーシャに耳打ちした。私たちの現在の状況を説明してくれた。
「主の好意を無下にするのもよくありませんね。メイラ、私たちもいただきましょうか。」
そうこうして、どうにか手を付けた分は食べきることができ、本当にどうにかなった。
当のメイラはルイーシャの突然の手のひら返しに困惑していが……
さて、時は朝に戻り。
「エリー、今日は教会に行くのよね?」
「ええ、護衛はリアナとリースだけで行こうと思ってます。別にグレースじゃなかったらなかったで構わないんですけどね。とりあえずフレール大司教との約束だけは果たしておこうと思っているだけですから。どうだったかはちゃんと伝えます。グレースだったら話せないことも多そうですけど。」
「それはいいのよ。話せることだけ話してくれたら。行ってらっしゃい。」
「はい。行ってきます。」
「寄付品と金子は用意してあるのよね?」
「はい、エレノア様。」
リアナが荷物を積んだ馬車と手に持った金子を包んだ風呂敷を見せる。
「馬車に積んでいる寄付品は私が教皇様と話している間に教会の方への受け渡しをお願い。
では、行きましょう。」
「お待ちしておりました。エレノア様。」
中に入ると優しそうなおじいさんといった雰囲気の人に出迎えられた。おじいさんといっても姿勢もよい。
「はじめまして、私がエルセース教の教皇をしております。フラウドと申します。以後お見知りおきを。」
いきなり教皇様本人に迎えられた。
「お、お初めにお目にかかります。エレノア・フォン・ルミナリアです。」
「そんなに緊張なさらんでよろしいのですよ。
ささ、こちらへ。」
教皇様の部屋に私たちは案内された。
「まずは、こちらをお納めください。」
私はリアナから金子を受け取り教皇様の前に置く。
「これはこれはご丁寧に。」
「他にも我が商会の品をいくつか持ってきておりますので後ほどお納めください。」
「感謝します。貴女に神の導きがあらんことを。
して。
後ろのお二方は貴女のことをどこまでご存知で?」
「私がグレースの可能性があることは。」
「そうですか。
エレノア様だけ、いらっしゃい。」
教皇様は部屋の隅に行くと壁に鍵をさした。
すると板の壁だと思っていた扉が開いた。
「エレノア様。」
リースがついてこようとした。
「大丈夫よ。リース。
行ってくるわ。」
扉の奥には石棺があった。
石棺を開けると階段があるのかと思ったがそうではなく、先ほどと同じ作りの扉が壁にあり教皇様はそこを開いた。
その先には階段があり私はゆっくりと教皇様のあとをついて降りていった。
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