第24話 本山へ行く準備をします

「お久しぶりです。フレール大司教。」

私はエルセス大聖堂に行く前にフレール大司教に会いに来ていた。

「お久しぶりです。エレノア様。そろそろ本山に向かわれるのですか?」


「はい。そこでなのですが、教皇様への面会依頼はどうしたらよいのでしょうか?

いくら貴族令嬢といえども、直接手紙を送ることと出来ませんし。この前いただいた紹介状だけで十分ということもありませんよね?」


「こちらから高速郵便を出しておきます。

王都を出られるのはいつ頃ですか?」

「ここ数日には出発しようと思っていますが。」


「それならば問題ありませんね。

王都を出発なさるときには本山に連絡が届いています。」

「そうですか。ありがとうございます。

私はてっきりもう本山の方に連絡していますよとでも言われるのかと思っていたのですが。」

私は冗談混じりにそう言った。


フレール大司教は苦笑いしている。

「私はそんなに信用ありませんかね?」

「微妙ですね。

それに、そもそも報告義務があると思っていましたので。」


「そういうことですか。ですが、エレノア様そういうのは嫌がられますよね?

それに、グレースを隠したいと仰っていますし。隠す気がない方ならまだしも。」


「それはありがとうございます。

でも、私がもしこっちに寄らずに出発していた場合はどうしたのですか?」


「紹介状は渡しておりますので、それがあればそこまで問題ありませんし、エレノア様なら一度こちらに来てくださるだろうなと思っておりましたから。」

フレール大司教はそう言ってニコッと笑うが、なんとなく思考が読まれているみたいで癪だった。


「それはそうと、本日は何を持ってきてくださったのですか?」

「はい? あぁ!!面会するのなら当然ですよね。先ほど、入り口の方でも枢機卿にお渡ししましたので、これは面会分です。」

私は布に包んである現金を机の上に置いた。

「こちらは?」

「ですから、寄付金ですよ。」

「あの、新商品とかは…」


「持ってきていませんよ。」

「どうしてですか?……」


「私の体裁も考えていただけませんか?

毎回寄付で商品ばかりお贈りしていると、教会と貴族位で発展した商会だ、と指をさされるんですよ。

そもそも、約束守っていただいていませんからね。」


「約束ですか?…

噂を流すという約束は果たしましたよ?」

噂が流れたお陰で、お姉様に次いでのただの天才という扱いになってくれたのだが。


「私、商品の発展にあたり感想をしっかりとくださる方を紹介して欲しいと申し上げたはずなんですが…」

「ああ!!そうでしたね。もちろん覚えておりますよ。」

フレール大司教は味ごとに感想をまとめた紙を持ってきた。評価は意外に辛口だった。正直言って上辺だけの言葉を並べられても参考にならないので助かる。こういうところはフレール大司教もちゃんと目的を理解してくれている。

「これを参考にしてまた新しく作りますのでしばらくお待ちくださいね。」


「いつ頃でしょうか?」

「冬が終わってからですかね。

それまでに、この前お渡した試作品はいくらか追加でお持ちしますね。おそらく私が持ってくることは出来ないので商会の者に代わりに持ってこさせます。」

「それはそれは、ありがとうございます。」


「次は多めに持ってこさせますので枢機卿を含め他の方々にわけてくださいね。」

「……なぜ枢機卿の名前が…」


「先ほど教会に入る際にお会いしたと言ったじゃないですか。その時に焼き肉のタレどうでしたか?とお尋ねしたのですが、枢機卿はご存知なかったようで。

あ、後でお話があるそうですよ。」


「隠してたのに…

後で怒られてしまいます……」

「まあ、頑張ってください!!」

枢機卿は優しい方として有名だから少し怒られて終わるだろう。


「では、本山への方へのご連絡よろしくお願いいたしますね。」

「…はい、お任せを。

そうそう、エレノア様。」


「はい、なんでしょう?」

「本山の方は収穫祭が行われてると思いますので…」

「収穫祭ですか?

王都ではもう行われましたよね。」

収穫祭は名前通りその年の収穫を祝って行われる祭りだ。エルセス教も収穫祭に深く絡んでおり、自然の中にいらっしゃる神々にその年の実りを感謝し、次の年の豊作を祈る宗教的な面もある。


「はい。こちら王都での収穫祭は一週間程度続きますが、本山の方では一ヶ月程度行われております。それにこちらよりも大規模ですよ。出店の数も多いですし。せっかくですから楽しんできてはいかがですか?」

「そうなんですね。ありがとうございます。」


私が屋敷に帰ると、お姉様が待ち構えていた。

「エリー!! 私はエリーがエルセス大聖堂に行くのについて行くべきよね??」


「いきなりなんですか?

話についていけないんですけど…」

「お父様がね、お兄様をついて行かせた方が護衛戦力的にもいいって言ってるの。」

「そもそも、誰かついてくる予定だったんですか?てっきり私一人と護衛だけで行くものかと思っていました。」


「それは駄目よ!!

何かあったらどうするの??

道中、野生動物や盗賊だって出ることがあるのよ!!」

「わ、わかりました。で、どうするのですか?

お姉様がついてきてくださるのなら、それで十分ですが。」


「そうよね!!エリーもお兄様なんかより私と行く方がいいわよね。収穫祭も私と一緒にまわりたいわよね。お父様にそう言ってくるわ。」

いや、そこまでは言っていないんだが…

今にもスキップしそうなほど嬉しそうにお姉様はお父様にお願いするために去っていった。


結局、追加で護衛をつけることという条件で(普段私たちの護衛をしてくれている方々以外のお父様の私兵も何人か連れていくということ)バチストお兄様でなくお姉様の同行が認められたのだった。

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