第23話 新たな主従の形

「「おはようございます、エレノア様、クラリス様。」」

いつも通りお姉様の部屋でルイーシャとお姉様のメイドに起こされた。


学院も今日から冬の長期休暇に入った。

私は、商会で済ませなければならないことも多かった。この期間中エルセース教の本山にも行かなくてはならない上に、一度領地に帰らなければならないからだ。


私が商会に向かうために馬車に乗り込むと、護衛も一緒に乗り込む。ただ、


「今日の護衛はリアナじゃありませんでした?」

訓練や休暇も必要であるのでリアナだけがずっと護衛としてついているわけではないが、今日はリアナの担当のはずだ。


「リアナは体調を崩してしまったようでして…」

リアナに次いでよく私の護衛をしてくれているリースがそう答えるも何か歯切れが悪い。


「それは大変ですね。何か持ってお見舞いにいきましょうか。」

私はリースの内心を探るように言った。


「…もしエレノア様に感染るといけませんので。おやめになった方が…」

「なら、お見舞いの品を渡すだけにするわ。直接会わなければ大丈夫よね。」


「……」

リースが無言になる。

「リース、何を隠しているの?

もしかしてリアナは病気ではなく、大怪我でもしたのかしら?」

「そうです。そうなんですよ!何でも階段から落ちたそうで。」

「リース。それならお見舞いを止める必要もないし、そもそも隠す必要ないでしょ?

言ってることがメチャクチャよ。

本当は何でリアナが来ないのかしら?」

この答えを私は考えていたと思う。考えながらもその可能性を否定したかったのだろう。


「リアナは昨日退職しました…」

聞きたくなかった答えだった。私は馬車から飛び出し、淑女らしい走り方なんて関係ない走りでお父様の書斎に駆け込んだ。


「お父様!!」

「エリーか、ちゃんとノックしなさい。」

お父様はいつも通りの態度だ。強いて言うならいつもより敢えて落ち着いているように感じた。

「そんなことよりも!

どうしてリアナが辞めたんですか?

もしかしてお父様が辞めさせたんですか?」


「あの事件の後にな、リアナがお前の専属を辞すると言ってきてな。あの事件にかなりの責任を感じていたようでな。」

「ですから。あれは私が予想を謝ったからです。それにあの一名だって…」

お父様はスッと手を上げて私を制止した。

「本当はあの場で辞めるつもりだったらしいが、学院が一段落つくまでは、と頼んだんだ。」

私はお父様から手紙を渡された。



拝啓 エレノア・フォン・ルミナリア様


これを読んでおられる頃、エレノア様は自領に戻られていると思います。他の護衛の方は責めないであげてください。私が黙っていてほしいと言っていましたので。体調を崩していることにしてほしいと。

エレノア様は…

(中略)

お身体にお気をつけて。いつかまたお会いできる日を心待ちにしております。

リアナ



私は手紙を握りしめ部屋を飛び出した。リースを連れてオルミスト商会に向かう。エーリア商会ではなく。


「リアナ!!」

私は商会の裏にある従業員寮のリアナの部屋に向かった。


「エレノア様!?本日は体調が優れないとお伝えしてはずですが…」

「嘘言わないで!!」

私は先ほど握り潰してしまった手紙を見せる。後ろのリースの申し訳なさそうな態度もありすぐに状況を察したようだ。

「エレノア様が領地に戻られた際に、手紙を渡していただいて、辞めたことが伝わるはずだったのですが…」

「リアナ。どうしてこんな形で辞めるの?」

「こんな形というのは…

グレースの件でしたら他言はしませんのでご安心を。それは手紙に書いていいものなのか悩んでしまいまして。」

リアナはリースに聞こえないように小声で言った。

「そういうことじゃない、話を誤魔化さないで!!

グレースかどうかなんて今は関係ない!!」


「エレノア様、声が大きいです。もし他の人に聞かれたらどうするんですか?

リース、今のことは他言しないように。

エレノア様、あちらの離れで話しましょう。」

私たちは来客用の離れに入った。


「…リアナどうして……

もしあの時にこんな危険な仕事やってられないって思ったならそう言ってくれていいから。

それなら納得できるから!今のままじゃ納得できない。」


「それは違います。そんなことは考えたこともありません。あの事件以降、私が訓練で剣を抜いたり、周囲を警戒したりすると時折エレノア様は辛そうな顔をされていました。私がいるから思い出してしまうのではないか。私があの時はじめから相手を殺すことを躊躇していなければ、エレノア様が人を傷つけることもなかったのではないか。そう後悔するのです。

もし私がいなくなればエレノア様も少しは忘れられるのではないでしょうか?」


「……そうよ。確かに思い出すこともあるけど。でも、ならこれからも私を支えてよ!!側にいてよ!!あの時に人を殺めたことよりも、もしかしたらリアナが(この世から)いなくなってたかもしれないことの方が!!でも、思い出すことがしんどい以上にリアナに助けられてる…信用してるんだから……」

私はそのまま泣き出してしまった。そんな私を見てリースもオロオロとしている。


「私はヴィクトル様に雇われていましたが、今は次の職はどうしましょうかね。護衛でもと考えているのですが。能力に関しては人よりは自信があります。そんな私を雇っていただけませんか?エレノア様。」

そう言ってリアナは私にニッコリと微笑みかけた。

「でしたら、私の護衛とその他諸々お願いしたいことがあるのですが。」

私は涙でぐちゃぐちゃになった顔を上げてリアナに笑い返した。


「わかりました。エレノア様、あなたにこれから先もお仕えします。」

「ありがとう!リアナ!」


「これからもよろしくお願いします。エレノア様。」


私がこれからもリアナがいてくれることにホットしていると、

「少しお待ちください。」

リアナがそう言って部屋を出ていった。


戻ってきたリアナはタオルと水を持っていた。

「初仕事は護衛ではなくその他諸々ですね。」

リアナはそんな冗談を言いつつ、涙で濡れた私の顔を拭いて、目元を濡れたタオルで冷やしてくれた。秋の終わりの水は冷たく心地よかった。


「あの、エレノア様。」

リースがおずおずと口を開いた。

「私はどうすれば?」


グレースのことを言っているのだろうか。


「グレースのことは黙秘しておいてください。リアナ後で軽くでいいので説明しておいて。」


「わかりました。

それにしてもエレノア様、今日のことといい、意外と子供らしいところもありますよね。」


後に“グレースなのに”と続きそうな言葉だ。

「それでいいの。今の私が“私”だって思ってるから。我思う故に我ありってね。」

「何ですかそれ?」

「何でもない。早くエーリア商会に言って仕事しましょうか。もうすぐ本山にも行くのだし。」

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