第22話 武学競技会
武学競技会は一日目に武術、二日目に学術が行われる。
「おはよう、リリア。」
「エレノア様、おはようございます。」
この場にはミリアもミナもいない。二人とも初等部の武術の試合に参加するからだ。
「リリアは誰に賭けるの?」
「今日はミリア様とミナさんに少し賭けようかなと。応援の気持ちと言いますか。」
「それくらいでいいわよね。
私も二人とお兄様たちには賭けておこうかしら。」
そう言いつつ私はモリスお兄様の中等部の試合の優勝とバチストお兄様の総合の優勝に賭けておいた。試合ごとに賭けるより、優勝者に賭ける方が圧倒的に倍率が高くなる。そもそも母数が違うから。それでも私は当たったらラッキー、失っても困らない額しか賭けていないが、毎年かなりの額を賭けて破産するものもいるとかいないとか。
学院生の試合が終了した。
「二人ともお疲れ様。」
「負けたわ…」
ミリアが悔しそうに呟く。
「まだまだ敵いませんでした。」
ミナも悔しそうだ。
二人ともこう言ってるが、なんだかんだ良いところまで勝ち上がっている。準々決勝の手前までは、去年強かったらしい人も倒して。だが、持続的な体力面が上級生にはまだ及ばず負けたという感じだ。それでも私とリリアは少し儲かった。ついでにモリスお兄様も優勝したのでかなり儲かった私であった。
午後からは総合の試合と英雄の部が行われた。
結果はバチストお兄様は準決勝で敗退した。誰に負けたのかというとミリアのお兄様、カストル様に負けた。そのカストル様は優勝した。
「あ、当たったわ。」
リリアが呟く。
「ミリアはカストル様に賭けてたのね。」
「気持ちだけね。でも、優勝できると思っていなかったのよね。」
「自分のお兄様を信じてあげなさいよ。」
「それにしても、今回は一般参加(総合で学院以外の参加)で強い人いなかったわね。騎士団も警備があるから基本参加できないし。運が良かったのね。」
もちろんミリアも貴族なので、気持ちだけ賭けたは数十万ほど賭けていたのだが…
そんなこんなで二日目。
武術は一対一での試合なのに対し、学術は8~10名で1グループとなり、この中で上位2名だけが勝ち上がる。ブロックは六つに分かれており、決勝は12人で行われる。私も内心多いなと思うが… 問題は観客にもわかるように、観客席側にも問題の書かれた大きな紙が貼られる。
私は午後からなので午前中はリリアの観戦だ。
リリアには商会の経理を一部任せている。というか元々商会支部の手伝いを幼い頃からしていたこともあり(ダストさん談)、算術に関してはかなり出来る。ハラハラしたこともあったものの、結果リリア優勝。
応援の気持ちで賭けているだけなのに何故か増え続けている私たちであった。
さて、午後。私は試合のトーナメント表を見に行った。仕組まれたかのように、私たち兄弟は決勝まであたらないようになっていた。おそらく、仕組まれたかのようにではなく、実際に仕組まれているのだろうが…
私もお姉さまもバチストお兄様もロランお兄様も余裕で決までは突破した。
モリスお兄様は先日学術も出来る、と散々フラグを立てていた。おかげで(?)ちょこちょこミスを連発…とはいえ、毎試合上位2名にはなんとか残り、ギリギリのところでフラグ回収は免れた。どれだけハラハラしたことか!横で見ていたお姉さまの『負けたらどうなるか分かっているわよね?』みたいな圧も怖かったし…
どうにか兄弟全員揃った決勝戦。
ところで文句を言いたいことがあるんだが…
前世でみたことのあるような数学の問題とかがチラホラあるんだが。グレース、それを伝えている暇があるなら技術をもっと発展させておいて欲しかった!!技術の発達のために必要なものも多いのだがそれはさておき。さすがにもう馴れたが、現代社会に浸かっていた身としてはかなり不便だったんだよ!!
学術の試合に学者たちが参加するのは禁止である。勝負にならないからだ。問題制作を担当している。それならば前世の記憶のある私がこの世界の算術で詰まることもなく、歴史書もある程度は読み漁っているので、解いてもいい問題なのかを観客席のリアナにこっそり確認をとりながら(この世界での未解決問題とかが混ざっているとまずいので)そのまま優勝した。
ミスが0とまではいかなかったもののどうにか優勝はできた。お姉さまとルー様とはかなりの接戦だった。2人とも賢すぎてほとんど間違えなかったから。
「エリー、お疲れ様。それに優勝おめでとう。」
「優勝おめでとうございます。」
「エレノア様、おめでとうございます。」
会場を出た私のもとへミリアたち3人が駆け寄ってきた。
「ありがとう。リリアも優勝したじゃない。おめでとう。」
「それにしても、あの決勝戦のメンバーで勝てるものなんですね…」
ミナが少し引き気味で言う。
「どうにか勝った程度だけどね。」
「エリー、クラリス様とルー様と張り合えるだけで普通じゃないのよ。」
ミリアは私の返答に納得していなそうだ。
「ルー様ってそんなに有名なの?」
私は疑問を口にした。
「去年中等部の学術に出場して圧勝して、他の人が勝負にならな過ぎて、今回の総合出場がその時に決められたそうです。」
「そうよ。2人だけ異常に倍率(賭けの話)が低かったでしょ?それだけ優勝すると思われていたのよ。あ、私は昨日の勝ち分全部エリーに入れといたのよ。2人も同じく。勝ち分だけなら失っても問題ないでしょ?」
…それ、もし私が負けてたらすごく申し訳なかったやつなんだけど。
「それにしてもかなりの額になりましたね。昨日の試合の副賞で出た賞金も入れておいたんですけど。」
「ん?賞金まで私に賭けたの?もしかして、リリアもとか言わないわよね?…」
「あ、はい。普段からお給金もいただいていますので、応援がてら全部……」
本当に勝って良かったああ!!!!
失っても困らないのはいいとしても、そんな向こう見ずなことはしないで……
「エレノア様じゃないですか。」
3人と話していると、担任のイザベラ先生に声をかけられた。
「優勝おめでとうございます。リリアさんも優勝おめでとう。ミリア様もミナさんもお疲れ様でした。」
「ありがとうございます。」
「こちらこそですよ、エレノア様。」
…こちらこそ?……
「かなり儲かったのですよ!!見てくださいエレノア様の優勝に賭けたこの券!!他の先生方も大喜びでしたよ。」
ちょっと待て、私が大穴になるっていうのは建前ではなく本音だったのでは?
「イザベラ先生もエリーに賭けていらしたのですね。」
「その様子ですとあなた方もエレノア様に賭けたのですね。」
イザベラ先生が上機嫌でミリアたちの持っている券を覗き込むとすぐに硬直した。
変なノリで3人ともかなりの額を賭けているからだ。
「3人あわせて私の給料何年分になるのやら…
あああ!!私も全財産賭ければ良かった!!」
イザベラ先生はもう言葉遣いがぐちゃぐちゃである。
「エレノア様。来年も出場してくださいね。全財産賭けますから。」
「負けたときに責任とりたくないので、やめてください。あと、はしたないので叫ばないでください。」
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