第21話 大賭博大会の準備

「エレノア様。学年ごとの部ではなくて、全総合の方に出てくれないかしら?」

私は先生方に詰め寄られていた。


何があったのかというと、もうすぐ王都で武学競技会が行われる。名前の通り、武術に自信があるもの、学術に自信があるものが競い合う大会だ。

上位入賞者には賞金が出る。そして、これは別名大賭博大会と言われている。これはもちろん観客が金をかけるからだ。この大会が特に盛り上がる理由は、この国では基本的に賭博が禁止されているからだ。

当人同士が少々金をかける分には何も言われないが、国もしくは領主以外が胴元となるような大規模な賭博は禁止である。領主が胴元として許されるのも自領地を活気づけるために行えるようにするためである。

それはそうと武学競技会。武学競技会の学術は学院生徒の学年ごとの部。初、中、高等部ごとの学年の関係ない学院総合の部。学院年齢関係なしで参加可能な全総合の部。武術は学年ごとの部はなく、初、中、高等部ごとの学院総合の部。制限のない全総合の部。騎士団の上位の人間だけが参加する英雄の部。から成る。

また、学院生徒でない子供が参加する場合は自身の年齢に合った学院生用の部に参加することが可能性である。そのような参加者がある程度の成績を残した場合、学費免除で学院に編入することが出来る。学術ではほとんどいないが、武術で編入する者は毎年数名いる。

他にも、本来は学院の卒業が必要な騎士団も武術で一定以上の成績を納めれば、入団も可能になったりする。

このように多くの意味のある競技会なわけだ。


そして私はそれに学術で出るように迫られているわけだ。別に出ないつもりはなかった。兄弟たちも例年出ているので、学術で学年ごとの部に参加しようと思っていたのだが、学年総合ですらなく、全総合の部に出るように言われているのだった。


「お断りします。」

普通に面倒な上、全総合で勝ち上がった日には後々面倒なことになるのは目に見えている。


「私には身に余ります。初等部の方でしたら出場を考えますが。」


「そっちにはリリアさんとルード様が出るから…

やっぱり全総合に。賞金も全総合の方が多いしね。」

あいにくお金には困っていない。他にもちょこちょこ商品を作っているので商会から十分に入ってくる。


「どうしてそんなに私を全総合に出したがるのですか?」


「入学試験の筆記成績優秀者は全総合に参加する生徒が多いの。それとは関係なしに無謀に参加する生徒も多いんだけどね。それに、エレノア様が出てくれたら大穴になるに決まってるじゃない!」


試合形式は数人一組のグループ内で競って勝ち上がり式。それぞれの試合ごとに賭けられる。初戦であれば年齢的に考えても私が大穴になることはほぼ確実だろう。

ただ、流石にこれだけの理由ではないだろう。いや、そう信じたい。


「本音を言っていただけますか?」


「いくつかあるのだけどね。クラリス様が去年圧勝だったのよ。そのクラリス様に張り合えそうな生徒が、あなたとあなたの御兄弟それとあと数名くらいかしら。」


「それで私が。1つお訊きしたいのですが去年はバチストお兄様は参加していないのですか?」


「彼は、武術の方だけ参加していたのよ。」


「でも、今年はバチストお兄様が出場するのであれば私は必要ないのではないのでは?」


「その、クラリス様がエレノア様が出場しないと自分も参加しないと…」


…あ、家でもお姉様に言われた気がする。全総合の部に出ないことにお姉様が文句を言っていたような。


「わかりました。全総合にでます。」


「いいのですか?」

先生方は嬉しそうな顔で言った。


「家の問題ですから…」

こちらこそご迷惑をおかけしてしまい…

最近思うんだけど、ロランお兄様の次にまともなのってロランお兄様かもしれない!!



家に帰るとすぐにお姉様が飛び付いてきた。

「聞いたわよ、エリー。全総合に出るのよね?」


「ええ、出ますよ。」

お姉様が駄々をこねたお陰で…


「なら、兄弟姉妹で勝負ね!!」

お姉様のテンション高いなと思いつつ、ロランお兄様がいるのに気づいた。お互いアイコンタクトで「巻き込まれましたね、お互いに…」みたいな気持ちが伝わった気がする。


「ところでお姉様。ロランお兄様はわかるのですが、モリスお兄様はそこまで学術できましたっけ?」


「ひどいなー。」

目の前のお姉様に訊いたはずなのに 、後ろから声がした。振り返るとモリスお兄様が立っていた。


「あら、いらしたんですか。モリスお兄様。」


「姉上に捕まっているエリーがロランとこっそり目で会話してるところからかな。」


一部始終ではないのか。それはそうと、そんな含みのある言い方をすると…

「エリー。どんな会話をしたのかしら?」

やっぱり…お姉様から圧を感じる。


「いえ、別に。それよりもモリスお兄様。ひどいも何もお兄様って剣術だけじゃないんですか?」

私はあからさまに話題をすり替えた。


「学術の方も上位に入るくらいには出来るんだけどな。」


「その言い方だと、モリスお兄様より成績のよい方がおられるのですか?」


「それがルーだよ。学者の息子だからね。今年は学術の全総合にも出るってさ。」


「でもその方、警備科じゃなかったですか?」


「いや、会計だよ。例の事件の時は偶然一緒にいただけだよ。エリーとミリアさんたちとの関係と同じだよ。」

横でロランお兄様も頷いていた。


「それよりもエリー。全総合で目立って大丈夫?」

モリスお兄様に訊かれた。

それもそうだろう。ここで下手に目立てばグレースである可能性が指摘されるうるだろう。

「一応対策は考えておりますので。」



数日後私は馬車で教会に来ていた。予めフレール大司教と面会をしたい旨を手紙で伝えていたのですぐに部屋に通された。

「よくお越しくださいました。エレノア様。」

フレール大司教は仰々しく歓迎した。


「数週間ぶりでしょうか。フレール大司教。」

「そうですね。本日はいったいどのような?あちらに向かわれるのもまだ先でしょうに。」


「本日は寄付を持ってきました。」

「それはなんと!!」

目を輝かせているフレール大司教に私は瓶の入った箱を見せる。瓶の中はもちろん焼肉のタレだ。


「感謝いたします。」

目の前で喜ぶなまぐさ坊主に私は呆れつつも話を始める。


「それでですね。1つ相談もあって参ったのですが。焼肉のタレのアレンジをくわえたみたものがいくつかあるのですが、意見を聞くのによい方を紹介していただけないかなと思いまして。」

自分が適任ですみたいな顔をしているフレール大司教は置いておいて、話を続ける。


「教会関係者の方にこういうのも何ですが。試作品を差し上げて、私の力になってくれそうな方をフレール大司教ならご存知ではないかと思いまして。 」


「話を聞きましょう。」

そう言ってフレール大司教はキリッとした顔をする。思うのだが、チョロくないですかね。この大司教は…


「武学競技会の後に、私がグレースの証明を受けていないという噂を流していただけませんか?」


「それは…」

以前言った内容がある手前、少し悩むフレール大司教に私はさらに話を続けた。

「別に虚偽の発言を要求しているわけではないのですよ。そもそも噂ですし。噂が流れる時点では私が証明を受けていないことも事実ですから。」

フレール大司教はかなり悩んでいる。


後一手、私は教会に来るということで持参していた聖典を取り出し右手を上に置いた。


「本山には必ず参ります。」


私の一言でフレール大司教は納得したようだった。

「わかりました。ではお望みのままに。」


「ありがとうございます。ではこちらもお受け取りください。感想はちゃんとくださいね。」


こうして私は心置きなく大賭博大会に参加出来るようになった。


フレール大司教が間違えて辛いソースを大量にかけたのはまた別の話。

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