第17話 事態の把握
手渡されたカフェラテを口に含む。
いつもより甘かった。まだ熱いそれを飲みほした。
体が温かくなった。
「…はぁ~。甘い。ありがとう、ルイーシャ。」
「どういたしましてエレノア様。」
空になったマグカップをルイーシャに渡し、私たちは朝食をとるために一階に降りた。
私とお姉様が食堂に入るとお兄様たちがすでに座っていた。お父様とお母様はまだのようだった。
「「「おはよう」ございます。」」
「「おはようございます。」」
昨日のことのせいで、全員が気を遣いしばらくの沈黙が流れた。
その沈黙を破ったのは私だった。
「あ、あのモリスお兄様。ミリアたちは昨日…!!」
「3人とも怪我はないってさ。
ミライブ伯爵の令嬢は心配ないだろうけど、
残りの2人はエリーも心配するだろうから護衛を浸けておいた。」
「ありがとうございます!! モリスお兄様!」
「ところでさ、エリー。」
「はい、なんでしょう?」
「また、面白いもの作ったって聞いたんだけど。」
モリスお兄様が話題を変えた。
「焼肉のたれのことですね。」
「それ食べてみたいんだけど。」
「そんなものを作っていたのか。気になるな。」
モリスお兄様を止めるでもなく、バチストお兄様も興味津々のようだ。
チラッとお姉様の方を見るとニコニコ笑っていた。果たしてそれは「私も食べたい。」という意思表示なのか、「私、何も聞いてないんだけど」とでも言いたいのかよくわからなかったが。
「わかりました。あとで伝えておきますので。
でも過度な期待はしないでくださいよ。」
後でルイーシャに頼んでおこう。
「遅くなった。おはよう。」
「みんな、おはよう。」
「「「「「おはようございます。」」」」」
食事を始めて、お父様が口を開いた。
「エリー。」
「はい。」
「今日、学院は休んでいいぞ。」
「それは、何か用事があるということでしょうか?」
「いや、昨日の今日で行くのはしんどいかと思ってな。」
お父様もお父様なりに私の精神状態を心配してくれていたようだ。
「いえ、行こうと思います。」
「そうか、一応護衛はつけておくように。」
「わかりました。お父様。」
一度、自室に戻り準備をしていると、ドアがノックされた。
「はい、どうぞ。」
「失礼します、エレノア様。」
そう言って入ってきたのはリアナだった。
「昨日は申し訳ありませんでした。
エレノア様が見ていたにも関わらず、1人殺めてしまいました。凄惨な景色を見せてしまい、改めて申し訳ありませんでした。」
「違っ!! あれは私が!!……」
私が慌ててリアナの顔を見ると、リアナは「あなたには責任はありませんよ。」とでも言いたげな顔をしていた。何となく少し悲しそうな顔をしているようにも見えた。
私は何も言うことができず、用意を終わらして部屋を出た。
学院につき私が教室に入るとミナの姿を見つけた。
ミナは私に気付くとすぐに駆け寄ってきた。
「エレノア様、おはようございます。
あの、大丈夫ですか?」
「ええ、昨日のことなら心配いらないわ。」
少し無理して口角をニッとして笑って見せた。
「それよりもミナは大丈夫だったの?」
「私は大丈夫です。エレノア様のつけてくださった護衛のお陰で安心して眠ることもできましたし。
本当にありがとうございます。」
ミナはそう言って笑顔で頭を下げた。
「昨日、あの後どうなったか教えてくれないかしら?」
「私のわかる範囲ですと、ミリア様は高等部にいらっしゃるお兄様に連れられてお帰りになりました。
リリアはロラン様が家までお送りになられていました。」
護衛をつけただけではなくて、ロランお兄様がリリアを送ってくれたのか。後でお礼を言っておこう。
「わかったわ。で、彼らがどうなったかはわかる?」
「申し訳ありませんが、学院担当の警備兵に引き渡されたところまでしか…」
「教えてくれて、ありがとう。」
「とんでもないです。
お役にたてたのならよかったです。」
警備兵に引き渡されたのなら今は城の牢に繋がれているだろう。尋問して何かわかればお父様が教えてくださるだろうし。
その日、ミリアもリリアも学院には来なかった。
昨日の心労で休んでいるのだろう。
私はというと、気を紛らわしたいのもあって役員と商会の仕事に打ち込んでいた。
屋敷に帰り、夕食では例の焼肉のたれをお披露目して高評価をいただいた。
夕食を終えて、お父様の書斎に向かう。
私は扉をノックした。
「失礼します。エレノアです。」
「入りなさい。」
部屋に入った私はお父様と向かい合う形で座る。
「聞きたいことは昨日の暗殺者のことか。」
「はい、そうです。わかったことを教えていただきたいと思い。」
「全員死んでいたよ。」
「は!? えっと…」
私は驚きのあまり言葉遣いが乱れてしまった。
「死んでいたというのは…」
「なんでも、食事に毒が入っていたらしい。
そういうわけで尋問も出来ていないが、エリーも犯人に目星はついているだろう?」
「ドーランが私怨で雇ったものかと。
宰相閣下から話は聞いておりましたから。」
お父様は頷いた。
「おそらくそうだろうな。
だからといって、どうにもならないがな。」
「どうしてですか!!」
私は思わず机に手を叩きつけた。
「落ち着きなさい。」
「失礼しました。
取り乱しました。」
「今回は尋問で何かを聞き出せたわけでも、証拠があったわけでもない。宰相閣下から聞いた話もあくまで噂話だ。」
「それじゃあ、私は安心できないじゃないですか!!」
私の関わった人が死ぬのも嫌だったので処刑もなく何をもって安心と考えていたのかわからなかったが、それでも煮え切らなかった。
お父様が口を開いた。
「そもそも今回の件はワロン子爵本人も知らなかったようだしな。彼の息子が勝手にやったことらしい。
それでも、奴らの口から何か漏れると困ると思い殺したのだろう。
昨日のうちに勝手に交わされていた契約書の類いも処分しているだろうから、証拠も出てこない。」
「犯人がわかりきっているのに何もできないんですね。」
私は重いため息をついた。
「それでも今後は何もないと思うぞ。
こちらが騒がなければワロン子爵もなにもしてこないだろう。お前たちを殺害するメリットはない上に、彼にとってこの騒ぎの収束が最優先事項なはずだ。
一応警告もしておくしな。」
そういうお父様は不敵な笑みを浮かべている、気がした。
よくわからないが、もともと私の手に余る事態だったので、お父様を信じてすべて任せることにした。
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