第16話 ドーランのお友達

典礼の四日前のこと。

私たちは学院内のカフェスペースでのんびりおしゃべりに興じていた。

他の多くの生徒は補習授業を受けており、私たちは役員の仕事が始まるまである程度時間があったのだ。

そこには、私、ミリア、リリアだけでなく役員で一緒になってから少しずつ話すようになったミナの姿もあった。

4人で他愛もない話をしているなか一番始めに異変に気付いたのはリアナだった。


少し離れたところに座っていたリアナは椅子を蹴って立ち上がり私たちの方へ走って向かってきた。

学校関係者に扮した他の護衛たちも私たちを守るように立った。


突然リアナが剣を振った。

甲高い音がしたかと思うと地面に小さなナイフが転がっていた。


「毒殺のような目立たない方法ではなく、直接殺しに来るんですね。 暗殺者としては2級以下ですね。」

リアナのそのような挑発に対し、8人の男が建物の陰から出てきた。


この時間は多くの生徒が必修の補修中であるとは言え、人が全くいないわけではない。それなのにこんな時間にターゲットを襲うとは…


「本来一度存在がバレた時点で退くべきですが。

先程は2級以下と言いましたが訂正しますね。

3級以下と言うべきでしたね。」


「なら、お前は3級以下の暗殺者に負けるそれ以下の護衛だな!!」

男の1人がそう叫ぶと同時に全員が襲いかかってきた。


私たちの剣はいくら学年で優秀といえども、いまだ実戦に耐えうるほどの技術はない。

護衛に護られるしかないのだ。

強いて言うなら護衛を避けて私たちを攻撃しようとする剣を少し凌げるだけだ。

それでも1人の護衛はお父様の私兵で優秀な上、もう1人もリリアの父親の私兵だ。その上、リアナはまるで踊っているかのように剣を振るう。

人数差があるにも関わらず状況は動かなかった。



これではお互いにらちが明かない。

しかし、長引けば騒ぎを聞きつけ誰かしらやって来るだろうからこちら

相手も思ったのだろう。それでも、1人でも落ちれば一気に変わると。


私たち四人を狙っていた剣が突如なくなった。

護衛二人と戦っている男たち以外はリアナを狙いに切り替えた。

男たちが私たち四人に意識を向けていたからこそ、どうにか相手を出来ていた状況だ。

いくらリアナでも限界がある。

リアナはすぐに押され始めた。


私たちはどうしていいかわからなかった。

未熟な剣でサポートしようにもかえって邪魔になってしまうかもしれない。


そう思っていたときリアナではない護衛2人と戦っていた相手の1人がスッと下がり、そのままリアナに斬りかかった。


景色がゆっくりと流れていった。

リアナに斬りかかろうとしていた男は首もとから赤黒い絵の具を振り撒きながら倒れていった。


仲間の倒れる様子を見て男たちは一瞬怯んだ。

その隙をリアナや他の護衛が見逃すはずもなく、

男たちの幾人かは手足を切られていた。


戦況を見ればこちらが圧倒的に有利であった。

彼らもその事を理解しておりすぐに撤退しようとしたが、騒ぎを聞きつけた警備科と教員たちが駆けつけてきて、行く手を塞いだ。


「そこをどけー!!」

男たちはそう叫びながら、倒れているものたちを見捨て、逃げ出そうとする。


警備科の生徒が1人前へ出た。

彼は鞘に入ったままの剣を構えた。

1人で多人数を相手にするようだった。


彼が剣を振るった。

骨が折れる鈍い音がして、暗殺者たちは腕や足そして胸を押さえて倒れていた。

暗殺者を圧倒した彼はそのまま私のもとへやって来た。そして今にも倒れそうな私を支えた。


「モリスお兄様?」


「ああ、そうだよ。

エリー怪我は?」


「怪我はありませんけど、あれが…」

私がそう言って瀕死で地面に横たわっている例の男を指差すのとリアナがその男の首をはねてとどめを指すのが同時だった。


私は全身に力が入らなくなり、モリスお兄様の方へ倒れこんだ。


「エリー!

ルー、あの子たちを医務室に連れていってやってくれ。

僕はエリーを連れて帰る。」


「わかった。」

ルーと呼ばれた生徒がそう応え、ミリアたちを医務室に連れていった。


「いいですね? 先生。」


「ええ、構いません。

妹さんお大事にね。」

先生からの許可をもらったモリスお兄様は家に帰るために馬車の手配をしていた。

私は安心感からかそのまま意識を失ってしまった。




リアナに首を落とされた男が倒れていた。

男は首のない状態で立ち上がり、自分の首を拾い上げると、その首を小脇に抱え上げるとこちらへゆっくりと歩いてきた。首から赤黒い血を撒き散らしながら。

よく見ると男の抱えた首の口が動いていた。

「ヒ・ト・ゴ・ロ・シ」と。


「イヤーーー!!!!」

私は飛び起きた。

「来ないで…… ごめんなさい、ごめんなさい…」


ふと手に感触を感じ、そちらを見るとお姉様が心配そうな顔で私を見ていた。私が気を失っている間、ずっと横にいてくれたみたいだ。

まだ震えている私の手に気付いたお姉様はそのまま私を抱きしめると、静かに

「大丈夫、大丈夫だから。」

そうささやいた。

私は泣いた。後悔とも違う言葉にできないやり場のない感情のために。

お姉様は私が泣いている間ずっと私を抱きしめて、背中をさすってくれた。

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