第15話 典礼準備
時は少しの遡って今年度役員が決定した次の日。
役員としての初仕事が始まった。
近々行われることになっている典礼のための準備だ。
典礼も含めほとんどの行事の準備は教員の監督下で生徒が行うのではなく、完全に生徒が主体となってやるものである。
取り返しがつかなくなる前には指導してくれるものの、ギリギリまでは何もしてくれない。
生徒の能力向上を謀るにはよい方法であると思う。
「昨年までの資料があるから取りに行きましょうか。」
そう言うクレアさんに連れられて私たちは資料倉庫に向かう。
「確か典礼の資料はここら辺に…
あ、あったあった。
昨年と一昨年の資料よ。」
クレアさんは棚から纏められた紙束をいくつか取り出した。
「結構量が多いんですね。」
紙束の一部を受け取った私はそう呟いた。
「まあ、そうね。
最終的に使わなかった案も全て保存してあるから。」
「さて、主に私たちがやることは資料の最終確認と料理の手配よ。」
持ってきた資料を机においてクレアさんはそう言った。
「では、料理メニューの候補は…
こんなにあるのですね。」
私はメニューの豊富さにとても驚いていた。
30や40どころではなかったからだ。
「入学の時のパーティーでもたくさんありましたものね。」
私の言葉にクレアさんは苦虫を噛み潰したような顔をした。
「例年よりメニュー数が減ってしまうと今年の役員は役不足と見なされることもあるから、減らすわけにはいかなくてね…
これ以上ふやさないようにはしてるんだけどね。
とりあえず子牛の丸焼きは決定として、 ほかはどうしましょうか。」
あの美味しくないの確定か…
いや私が日本で生まれ育ったから不味く思っただけで実際はそこまで不味くないのかもしれない。と思ったのだが、
「とりあえず丸焼きも数は減らそうかしらね。」
「入学パーティーで余ったのですか?」
私がそう尋ねるとクレアさんは頭を抱えながら答えた。
「えぇ。かなりね。
あんまり美味しくなかったでしょ?
華やかさや見栄のためにはほとんど必須のだけど、皆食べないのよね。もちろん私もほとんど食べないし。」
美味しくないと思ってるのは私だけではないわけね。
でも子牛の丸焼きってBBQみたいよね~
「あ!!」
私は思わず叫んでしまった。
「どうしたのかしら?」
「丸焼きは切り分けて提供しますよね?
でしたら切り分けたものを再度焼いて出すのはどうでしょうか?」
「丸焼きは切り分けて提供しますよね?
でしたら切り分けたものを再度焼いて出すのはどうでしょうか?」
「確かにそれなら少しは食べやすくなるかもしれないわね。」
クレアさんは少し考えるような顔をした。
「切り分けも自分たちでやるわけではなく、担当を置いているのですからうまくいきやすいのではないでしょうか。」
入学パーティーでも子牛を切り分ける担当の業者らしき人がいたのだ。
「あと、肉に合うソースも用意してはどうでしょうか?」
「あら?味はついていたはずよ。」
確かに塩味はしたような記憶がある…
ただそれ以上に生臭さの方が鮮明に思い出せるが。
「そうでなくて、もっとこう…」
私は焼肉のたれを思い浮かべていた。
「ではわかりました。
今の話は一旦忘れてください!」
私はそう言い、再び資料に目を通し始めた。
「エレノアさん。ちょっと待ってくれるかしら。
貴女の考えていたことはなんだったのかしら?」
「思い付いたことがあるので成功すればお話しします!」
戸惑うクレアさんに私はそう返した。
「まぁ、わかったわ。」
いまだに戸惑いつつもクレアさんは頷いた。
「クレアさん。こっちまとめ終わりました。」
私は資料にあった料理で例年比較的人気が高かったものをまとめ、クレアさんに手渡した。
「ありがとう。助かるわ。」
「いえ、仕事ですから!」
役員の仕事が終わった私たちはいつも通り商会にいた。
ただし、私がいたのはキッチンである。
私は商会につくやいなや、ミリアたちに仕事を投げ出してリアナと買ってきた食材を眺めていた。
「では、作ってみますか!」
私は焼肉のたれ的なものを作り始めた。
「リリア、ミリアこれ味見してみて!!」
私は2人にタレをかけたお肉を手渡す。
「これ美味しいですね。
何て言うんでしょう?甘辛いと言いますか…」
「新しい味ね。色んな料理に使えそうね!
でも、どうして今作ったの?
こんなに忙しいのに…」
ミリア怒ってませんかね?
スピーカーの件でかなり忙しいなか仕事丸投げしたからよね…
「えっと…
理由がありましてね。」
「へえ~、どんな?」
ミリアが怖い!!
「今度の典礼のパーティーでまた牛の丸焼きを出すわけでして、それに合うんじゃないかなって思いまして…
そこで宣伝も兼ねたら売れるんじゃないかと思いまして。
これなら販売に関してもオルミスト商会に完全に委託できるからいいかなって…」
「そう。わかったわ。
次からは先に教えて欲しいけどね。」
「はい。わかりました。」
とりあえず一件落着。
「でもこれだとすぐに真似されるんじゃない?
基本は刻んだ玉ねぎと醤油とかでしょ?
料理人ならすぐにわかると思うわよ。」
「リリアもわかった?」
「何となくはわかりましたけど。」
「ならこれを煮込んでみるわ!!
そしたら、調味料は別としてそれ以外は分かりにくくなるはずよ。」
私は作ったものを煮込み始めた。
しばらくして玉ねぎがトロトロになった。
「これならどうかしら?」
「玉ねぎの甘さが引き立っていいわね!!
これなら材料も分かりにくいだろうし。」
そういうミリアの横でリリアも頷いている。
「2人ともありがとうね。
これでクレアさんに販売できるわね。」
「また売るのね?…」
ミリアがあきれた顔で私に問いかける。
「もちろん売るわよ!
それに、今回だけ融通すると後々面倒なことになると思うのよね。」
「そこらへんはエリーに任せるわ…
あなたのなかでもう決まってることなんでしょ?」
とりあえずはミリアも納得してくれたようで。
後日、クレアさんからも好評だったためメニューに採用されました。
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