第12話 ミリアの失敗?

私はミライブ男爵からいただいた木材による試作品が完成したという報告を受けた。


「問題はないようですね。

ミリア本当にありがとう!!」


私はミリアに抱き付くような勢いでお礼を言う。


「どういたしまして。

よかった……

本当によかった、喜んでくれて……」

ミリアはうつむいていた。


「ミリア?」


「私、すごい不安で…

私せっかく商会に入れてもらったのに、リリアと違って何もできていなくて……

それで偶然木材の話があったからお父様とも相談して、エリーに話したらすごい真面目な顔で手紙を渡されるし、困らせてしまったんじゃないか、怒らせてしまったんじゃないか、嫌われてしまったんじゃないかって!!」


ミリアはそのまま泣き出してしまった。


私に責任がある。

リリアは私に仕えてくれているのに対して、ミリアはそれとは少し異なり貴族である。私はミリアに仕事をどれほど任せていいのかわからなかったのだ。

そのせいでミリアは疎外感をも覚えたのだろう。

本当は私が気にかけなければならなかったのに。


「ごめんなさい、ミリア。

気を使わしてしまったわね。

でも、そんなつもりは全くなかったの。

ミリアは貴族の令嬢という立場であるからどれほど仕事を任せていいかわからなくて…」


私は正直に話した。ここでむやみやたらにミリアの存在を肯定することはまた違うと思ったから。


「そんなの気にしなくてよかったのに。

だってエリーだってたくさん働いているでしょ?」


「そうね。本当にごめんなさい。

これからは気にせずに色々と任せることにする。」


「ええ。」


しばらくしてミリアは泣き止んだ。

「ごめんなさいね。

見苦しいところを見せてしまって。

どんどん仕事を私に投げてよね。」




後日、私たちはミライブ男爵邸に向かっていた。

改めて、お礼をしたいという思いからだ。


「皆様、お待ちしておりました。

ミリアお嬢様もお帰りなさいませ。

旦那様がお待ちですので、ご案内いたしします。」

そう言ってメイドに迎えられ、私たちは客室に案内される。


「ようこそ、いらっしゃいました。

私がミライブ家当主のロイド・フォン・ミライブです。

エレノア様はご存知でしょうがね。

そして、そちらはリリアさんだね。初めまして、娘と仲良くしてくれてありがとう。」

「お久しぶりです。ミライブ男爵。」

「お初めにかかります。ミライブ男爵様。

私はリリアと申します。…」

リリアは多少緊張していたものの、つつがなく自己紹介を済ました。


「先日の材木の手配の件ですが、誠にありがとうございました。こちらはそのお礼です。」

私はかかった費用より少し多い金額の入った包みを渡す。


「いえいえ、こちらは受け取れません。

ヴィクトルも始めにある程度を渡していたそうですし、これは私からの貴女たちへの応援ですから。」


「ですが、お父様は初期費用を立て替えてくれただけですから。私たちはそちらの木材を"購入"したつもりですので…」


「それでも、これは受け取れません。」


お金は拒否されると思っていたがやっぱりか。けれど、何かをもらった以上お礼はしたい、というよりしなければならない。借りを作りたくはないからだ。

正直に言うと、ここまでは予想通りなので問題ないのだが。


「ディアン、あれを。

わかりました。その代わりにこれを…」


ディアンとキールが2台のスピーカーを持ってきた。片方はミライブ領の木材で作ったもので、どちらもミライブ家の家紋を入れてあるものだ。


「そちらは?」

ミライブ男爵が訊ねる。


「はい。すでにご存知かもしれませんが、こちらはスピーカーという当商会の新商品です。

前回のものと用途は同じです。大きくなってはおりますが、性能は上がっております。」


私の説明に対し、ミライブ男爵は首を横にふった。

「いや、そのような商品があることは初耳だ。

ミリアは木材の安価な入手ルートを聞いてきただけでな。

なるほど、これのためだったのか。」


「はい。ミリアが提示してくれたお陰でかなりの予算削減に繋がりました。

それでなのですが、今回の謝礼といたしまして、こちらのスピーカー2台を受け取ってください。」


「いや、そういうわけにはいかない。

販売予定価格はいくらなのかね?」


流石にこれは受け取ってくれると思った私が甘かった!

私もどうにか受け取ってもらおうと言葉を返す。


「いいえ、どうかお納めください!」


「いや!

まだ価格決まっていないのなら、これくらいでどうだ!」

そう言ってミライブ男爵は銀貨を10枚ほど置いた。


いや、多すぎるし!!

そもそもの論点が…


「これでは私たちの考えている予定価格より多いです。その前に代金は必要ありません。

受け取ってしまえば、貴族の親の威光を利用した愚かな貴族令嬢の店と思われてしまうかもしれません……

私たちの商会には信用が必要なのです。

ですから!」


「なるほど、今回はそういうことにしておこう。

では、販売予定価格はいくらなのかね?

そこから、木材費用の分を差し引いてお支払しよう。」


予定が狂うー!

スピーカー2台を渡す予定だったのに!

これじゃ押し売りみたいだよ…


「いえ、木材費用の件で我が商会へにご投資誠にありがとうございます。

こちらのスピーカー2台は謝礼となっております。どうぞお受け取りください。」

そう言いつつ、私は圧を含んだ笑顔を向ける。

子供が向ける圧だから意味はないかもしれないが、ミライブ伯爵は私の気持ちを汲んでくれたようだ。


「わかりました。

そういうことにしておきましょう。」

ミライブ伯爵は苦笑いしつつそう答えた。


ふぅ。これで一段落ついたよ。


「それでは…」

そう言って私は席を立つ。


「そうだ。これを渡しておくよ。

庭師とのやり取りに必用だろう。」


「感謝します。」


「ああ、これからも期待しているよ。それにミリアとも仲良くしてやってくれ。」

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