第13話 初中等部役員

ようやくマナー講義が一通り終了した。

そういうわけで試験が行われる。この試験をパスしないと学校行事に出席することができない。

マナーのなってない子供を式典には参加させられないでしょうから。

試験会場は普段授業を受ける教室とは異なり丸い机がいくつも置いてある部屋だった。


「貴族枠の生徒と一般枠の生徒がどちらもいるように数人でグループを作って座っていってください。」


私はいつも通りミリアたちと3人でグループを作る。


「なぜ貴族である俺が平民と同じ席を囲まなければはならないんだよ!!」

わめき声が聞こえてきた。

いつも通り、ドーランとかいうやつだ……


正確には貴族の子供は貴族ではないんだが。

成人式をもって貴族となるわけだから。

それ以前に授業なのだから指示に従うべきである。


先生がそんなドーランを窘めるが彼は聞く耳を持たない。



「あの、私もそちらのグループに参加させていただいてもよろしいですか?」

唐突に声をかけられた。


「あなたは…ミナさんでしたよね?

構いませんよ。」

私はそう答える。


「はい。

ミナと申します。

あちらの方と組むことになりそうだったのですが、先生が他の誰かと組むようにとおっしゃったので。」

ミナはローランの方に目を向けた。


なんというか…うん!

御愁傷様です。 苦笑いするしかない。


「それは災難でしたわね。」

ミリアはそう言い、またその横のリリアはローランに対する嫌悪感で溢れていた…

入学初日であんな風に絡まれたら、嫌いになるよね。



「それでは試験を行っていきましょうか。

まずはパーティーに参加したものとして、お互いに挨拶をしてください。

私はこの場にいないと仮定します。」

私たちの担当の先生がそう言い試験は始まった。


「初めまして。私はミナと申します。護衛、高速郵便をしている家の娘です。どうぞお見知りおきください。」

「おはようございます。本日は私、リリアをお招きいただきありがとうございます。」


「リリアさん。

初めてお会いしたという状況で行ってください。」

先生にそう言われ、リリアは挨拶をやり直した。


「お初目にかかります。私はリリアと申します。

本日はこのような場にご招待いただき誠にありがとうございます。」


「ミナ、ミリア初めまして。よく来てくれました。私はエレノア・フォン・ルミナリアです。」


「お二人とも初めまして。

私はミリア・フォン・ミライブよ。

よろしくね。」



「次は、私が主催したものとして行ってください。」



「はい、皆さん4人は合格です。」


最低限のマナーの確認なので、自分を持ち上げすぎたり、卑下しすぎたりしない限りある程度敬語を使えれば合格できる。


パッと見て、6割程度の生徒が合格している。

どちらかと言えば準男爵ほどの親を持つ子供が自分を下げすぎてうまくいっていない感じだ。


その後、貴族枠の生徒は自分よりも位の高い貴族に挨拶をする試験もあったが私たちはそれも無事にパスした。



「ミリアさん、エレノアさん。

手紙は読んでくれたかしら?」

後日放課後、私たちはクレア様と会っていた。


私たちは試験が終了したときに、イザベラ先生を介して手紙を受け取っていたからだ。

役員として推薦するので少し時間を欲しいという内容だった。


「はい。」

「もちろんです。クレア様。」


「ここは学院なのだから、別に『様』なんて仰々しくつけなくてもいいのよ。

イザベラ先生の方からも成績の基準も十分に満たしていると聞いたわよ。2人とも歓迎するわ。

今日は他の役員との顔合わせを行うから、行きましょうか。

一年生の新役員の面接もさっき終わったから今は集計しているところよ。」


そう言えば、役員を志望する生徒の募集のお知らせあったっけな。

そう思いつつ、私たちは役員が会議諸々で使用する役員棟へと向かった。


向かっている途中で鐘が鳴り響いた。

「結果が出たようね。」

「何の結果ですか?」

私はクレアさんに訊ねた。


「役員志望の人の結果発表よ。

申し訳ないけど、裏口から入ってもらっていいかしら?

表口に結果を貼り出すから、人で一杯になっていると思うの。」



私たちは役員棟の会議室に入ると、既に多くの役員が集まっていた。


「会長そちらの方が?」

役員の1人が口を開いた。


「ええ、私と副会長のロイドが推薦したのがこの2人よ。」


「この度推薦を受けました、ミリア・フォン・ミライブです。

実戦科目が得意です。

えっと、よろしくお願いします!」


ミリアは緊張しつつも挨拶を終えた。


「ミリアと同じく推薦により役員になることが決まりました、エレノア・フォン・ルミナリアです。

まだ、入学したばかりですので至らない点も多くあるかと思いますがよろしくお願いします。」


「噂によると筆記満点だったらしいじゃないか…」

「あの入学式で新入生の男子生徒 のプライドをズタズタにしたという…」


そんな言葉が聞こえた。

プライドをズタズタにってあれは絡んできたあっちが悪いと思うんだけどな…


「ハハハ!!

エリーそんなことしたの!」


声のした方を見るとモリスお兄様が文字通り爆笑していた。


「モリスお兄様……五月蝿いです…」


「いや、だってエリーがそんなことをするとは!!

ヒィー、笑いすぎてお腹痛い!」


「ロランお兄様もモリスお兄様に何か言ってください。

これじゃ私が性格の悪い女みたいじゃないですか!」


「エリーの対応は間違っていないと思います。一方的に絡まれたんですよね?」

やっぱり、ロランお兄様はちゃんと理解してくれている!

いや、モリスお兄様はわかってて面白がってるのか…


「全くその通りです!

ロランお兄様も理解されたのであれば、これ以上我が家の品位を下げるような発言はなさらないでください。」


私も本気で怒っているわけではないので、冗談交じりにロランお兄様を味方につけて勝ち誇ったような顔でそう言った。


「妹に注意されてるぞ!」

「あはは、うるさい!」

友人と思われる人たちに茶化されているモリスお兄様は放っておくとして。



「騒がしくてごめんなさいね。」


「いえ、騒がしいのは私の身内ですから…」

クラリス様の謝罪に少し申し訳なりつつ私は答えた。



その後、他の役員をクラリス様が紹介してくれた。


「軽く紹介も終わったところで、残りの新役員たちを待ちましょうか。」


私たちはクレアさんに案内された席に座った。

そのとき、なぜか私たちは離れた席に置かれたのだが。


続々と新役員となった人たちが既存の役員や私たちと向かい合う形で座っていった。


しばらくして再び鐘がなった。

この鐘に間に合わなければ、例え選ばれていても辞退となる。


「それでは役員の顔合わせを始めたいと思います。

私は会長のクレア・フォン・アルジエルよ。

よろしくね。」

「私が副会長のロイド・フォン・ルシアスです。

よろしく。」


そうして、上級生たちの自己紹介が済み、新入生たちの自己紹介の途中で事件は起こった。


「俺はドーラン・フォン・ワロンだ。」


嘘!? あれが選ばれたの?


「君は掲示板をちゃんと見ましたか?」

人事を担当している役員から声が上がった。


「見ていないが…

俺ほどの成績があれば選ばれることなど当然ですから!」


「すみませんが、あなたは役員として名簿に載っていません。これからはちゃんと掲示板を確認してください。

それと、関係のないものがこの場にいることは禁止ですので今すぐ退出してください。」


ドーランは呆れた口調で諭されるも


「ふざけるな!! 贔屓があったに違いない!!」


"ふざけているのはあなたでしょ!!"

そう私が口走りかけたとき


「今すぐ退出しなさい。」

静かだったが、とても圧のある声が聞こえた。

モリスお兄様が言ったのだ。


それでも喚き散らすドーランは、モリスお兄様を含む警備科の役員数名に連れていかれた後、教員に引き渡された。

他の役員はと言うとあれが例の問題児か…とでも言いたいそうな顔をしていた。


私は、いつもおちゃらけた感じのモリスお兄様にこんな真面目な一面があったことに驚きつつ、尊敬の眼差しを向けた。

するとお兄様はこちらを見てドヤ顔をかましていたのだが。


とまぁ、そんなことはさておき、その後の自己紹介は無事に済んだ。

驚いたことと言えば、リリアにミナ2人がいたことだ。他にもルードもいたがそれは驚くようなことではない。立候補するであろうことは予想がついていたし。


「教員から聞いたそれぞれの適正を考慮して、役職を振り分けていますので移動していってください。

もし希望がある場合は後で話を聞きますので今は指示に従って着席してください。」


ミリアとミナ、そしてルードは警備科に、リリアは会計科に、私はというと会長補佐だった。




「リリアが立候補してたなんてね。」

私たちはいつも通り商会の事務作業をこなしながら話していた。


「イザベラ先生に言われまして。

『エレノア様とミリア様も推薦されてるからやってみるのはどう?』って。」


「そういうわけね。

頑張りましょうね。

話は変わるんだけど2人は知ってる?

ドーランが一時的に停学になったんですって。」


ミリアからの情報に驚いた。


「え!? そうなのですか?」

リリアも驚いて聞き返した。

「あれほど問題起こしてたらね。あり得ない話じゃないわね。

リリア、あなた少し嬉しそうよ!」

私は冗談を含みつつリリアに語りかけた。


「だって、あんなの嫌いですし!

これからは落ち着いて授業を受けられそうですよね。」


ドーランは他の生徒が当てられているのを勝手に答える。答えようとして間違えたら先生にキレて、かつ本来当てられていた生徒に『お前がさっさと答えないからだ!!』って怒鳴り散らす。もしその生徒が貴族でなければ余計に。

そんな時は私やミリア、他にもルードといったまともな貴族の子息令嬢が庇わなければならないこともしょっちゅう。

絡まれたせいで少しの間欠席する生徒も少なからずいた。


そういうわけで、これからは落ち着いて学院生活が送れそうだ。

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