第11話 エーリア商会
私たちは、今や倉庫兼商会事務所となっている場所に集まっていた。
スピーカーが100あまり生産出来たという知らせを受けて、販売を開始するにあたっての相談をするためだ。
「シモンさん。かなり急ぎでしていただいたようで、ありがとうございます。」
「ご期待に添えたようでなによりです。」
「さて、本題に入りましょうか。
今回のスピーカーの販売にあたって前回のような事態を招かないためにどうすればいいか。
しばらくは貴族と教会のみの販売にしようと考えています。
しかも、販売は完全予約制の受注生産として、注文から一、二週間を目処に納品とします。」
「貴族と教会のみの販売はわかるけど、納品までに期間を開けるのはどうして?
あれだけ在庫をを用意しているのだから、すぐに納品できるでしょ?」
ミリアが私に訊ねた。
「前回のことを踏まえると、在庫が足りなくなる可能性も十分考えられるでしょ。
始めのうちだけ納品が早いと、後で予約した人との納品までの時間の差が顕著になると思う。
それで苦情が入る可能性もあるしね。
それでも在庫があるなら早く寄越せと文句を言う人も多いと思うの。
だから、受注生産という言い訳を用意しておいて、一、二週間待つのは普通なんだと納得してもらう。それでも間に合わない可能性がある時は、予約する際にあらかじめ話しておいてもらった方がいいわ。」
その考えに全員納得してくれたようだ。
「ところで、今回はどのように商品の紹介をなさるのですか?」
リリアにそう言われて、私は話し忘れていたことを思い出した。
「そうね。
シモンさん、頼んでいた物も出来ていますよね?」
「もちろんです。3つとも仕上がっています。」
「ありがとう。
アルジエル公爵には前の製品で宣伝をお手伝いいただいたからお礼として、スピーカーを1台お贈りしようと思っていてね、アルジエル公爵家の家紋入りの物を作ってもらってたの。
それと、教会にも2台ほど寄付しておこうと思って、教会の印を入れてもらったのもあるわ。」
「それとどう関係があるの?」
「近々、アルジエル公爵がパーティーを主催することになっているし、それからしばらくして大規模な典礼もあるからね。」
「つまり、お礼と言いつつ再び宣伝をしてもらおうと?」
ミリアが呆れた目で私を見つめる。
はい、本音は宣伝のための初回無料キャンペーンです……
「別にいいじゃない!
公爵も私たちの商品に興味を持ってくださっているのだから。
問題なし……よね?」
「今回は公爵様から新しい商品の宣伝を手伝ってくださる旨のお手紙もいただいていますので、問題ないでしょう。」
リアナ、ナイスフォロー!!
「でも、教会まで利用するのは……」
それはごめんなさい!
でも、教会への寄付は色々な意味で大事だから!
商品の宣伝、商会の評価、教会という後ろ楯、そして私の本当の……
「アルジエル公爵主催のパーティーで十分に広まると思うから大丈夫じゃないかな?
流行りのものを寄付するのはいいことだと思うし。
教会に宣伝させるという事態には……」
私はそんな言い訳をしつつ、話を進めた。
「とりあえず、スピーカーの販売はこのような方針でいきたいと思います。」
「「「わかりました。」」」
「わかったわ。」
「そして、もう1つ。
この商会はあまりに人が足りません。私たちはもちろん、リアナも私の護衛ですから、日中のほとんどは店に人がいません。しかも、今後仕事が増えていくことも考えられますので、私たちがいないときにも商会が運営できるようにしたいと思っています。
そこで従業員を増やしたいと思います。」
従業員を増やすことに関してはかなり難題だった。
安易に決めるとかなり厄介だ。
今までも他の貴族から人を紹介するという申し出はあったが全て断ってきた。他の貴族の息のかかっている人間に商会の運営を任せるのは、商会を乗っ取られる可能性もあり不安でしかない。
アルジエル派閥の貴族はその事がわかっているらしく融資の誘いがほとんどだったが、コーリアス派はそうもいかないわけだ。
結果として、2人だけ従業員を増やすことに決めた。
「リアナ、呼んできてもらえますか?」
「かしこまりました。」
そう言って、リアナは2人の男性を連れてきた。
私は2人の紹介をはじめる。
「では、ご紹介しますね。
こちらはディアンとキールです。
2人とも私の執事です。
人選をどうしようか悩んでいたところ、メイド長のエリザから息子のディアンを紹介された。
そして、お父様のもとで執事見習いをしていたディアンは私の執事ということになったのだ。
キールは学院時代のディアンの学友で、同様に執事見習いをしていたので連れてきたというわけだ。
「先日よりエレノア様の執事を仰せつかいましたディアンと申します。」
「ディアンと同じく、エレノア様の執事を仰せつかいましたキールと申します。」
「そこまで堅苦しいと、私たちまで息苦しくなりそうだから、もう少しだけ砕けた感じでお願いしてもいいかしら?」
「かしこまりました…
いえ、わかりました。」
「はい。」
「ありがとう。」
私は彼らに微笑み、話をはじめた。
「ディアンとキールは私の執事となっていますが基本的には私たちがいない間の商会の運営をメインで行ってもらいます。
運営に関しては
…
…
では、そんな感じでお願いね。」
「ねえ、エリー。」
「どうしたの? ミリア。」
「この前、材料費がかさむって言ってたじゃない?」
「言ってわね。」
基本的に王都は物価が高い。
そのせいで、試作品を作る際の開発費用にもそこそこかかってしまっている。
材料の入手ルートが確保できていないのが現状である。
スピーカーもそこそこぼったくっているとはいえ、材料費と生産にかかる人件費を考慮すればそこまでではないのだ。
「そこでなんだけど、うちの領地の木材なら今までより安く済むかなって。
お屋敷の庭師の人が、材木販売も行っているんだけど…」
「材木を? それはありがたいわね。
でも、工房はこっちにしかないわよ。」
「王都まで輸送はしても安くなるの。
一応これが輸送まで含めたときの予想ね。」
私はミリアから資料を受け取る。
1つ思ったけど、この世界の子供の能力高すぎない?
まあ、それは置いておいて…
そういえば、オルミスト商会でも材料は王都外から仕入れていた。ただ、うちの領地は王都からあまりに遠く算出が合わなかったから保留していたのだ。
ミリアの資料だと、確かに今のまま王都で購入するよりもかなり安い。
これは足元を見られていた可能性もしかり!
一度値引いてもらおうとしても駄目だったし。
とりあえず今やるべきことは、その木材でちゃんとスピーカーが作れるかの確認、輸送経路の相談、本当にその価格で卸してもらえるのかの確認だ。
「まずはそっちの材木で試作品を作らなきゃいけないから。
どうしよう? 木材を持ってきてもらうか、あっちに人を派遣するか。」
「ある程度ならお屋敷にあるわよ。」
え? 準備良すぎるよ。
「お父様が『必要だろ?』って言っててね。」
「それは作業も早く済むから助かるんだけど。
さっきの資料も、それでかかった輸送費からの算出ってわけね。
ところでそれはどれくらいあるの?」
「荷馬車数台分だからだから…」
「!? それってかなりの量。
聞きたくないんだけど、それ全部私たちのためよね?
…リリア。」
私は少し頭を抱えそうになりながら、リリアに手紙を書くための道具を一式持ってきてもらう。
書いた手紙に封をしてミリアに渡す。
「ミリア、今日帰ったらあなたのお父様にこの手紙を絶対に渡してね。」
「え、えぇ、わかったわ。」
「ディアンとキールは材木が届き次第、試作品を作る手配をお願いします。
では、完成したスピーカーの在庫確認からしていきましょうか。」
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