第10話 グレース

「今日は聖典の読み合わせを行います。

1ヶ月後、全ての教会で大規模な典礼が行われます。そのためにも頑張って下さい。」

そう言ってイザベラ先生が授業を始める。


「創造神のお作りになったこの世界にグレースが遣わされたとき、人は…」


「イザベラ先生、"グレース"とは何なのですか?」

知らない言葉に質問があがった。


「そうですね。

"グレース"は"人々を導く者"または"神の使者"と言われています。

例えば、初代教皇、そしてその当時の教会の司教たち、他にも帝国の初代皇帝は"グレース"だったと言われています。

"グレース"は我々では知りえない知識や思考を持っていたと言われ、時には未来まで予想したと言われています。

ここ100年ほどの間は現れていませんがね。」


「では、"グレース"を騙った人は過去にはいないのですか?」


「それはですね…神聖国の本教会で教皇様の証明を得ることで"グレース"であると言えるようになるのです。

騙ったりしてしまえば、極刑は免れませんよ。

かなり脱線しましたが、読み合わせに戻りましょうか。」


記憶、知識、発展…

おそらく、"グレース"とは…

創造神とやらは知らないが可能性として私も…

それでも、私としてはあんまりバレたくないと思う。

販売する商品も理論発見の理由を何かしらでっち上げておいた方がいいだろう。

お父様やダストさん、リアナ先生には既に勘づかれている可能性もあるが。


鐘がなった。

「…………本日はここまでです。

ではまた明日。」


「「「ありがとうございました。」」」


そういえば、言っていなかったが今は授業は午前中だけだ。

マナーの講義と試験が終了すると補習授業が始まる。


「エリー、どこかでお昼一緒に食べない?」

ミリアに声をかけられた。


「いいわね。

リリアも行くわよね?」

「あ、はい。ご一緒させていただきます。」


そういえば、なんだかんだ忙しくかったせいで、ちゃんとミリアたちとお昼を食べれてはいなかった。


「前々から行きたいと思っていたお店があるんだけど、そこでいい?」


「いいわよ。」

「はい。」

ミリアの言葉に私もリリアも賛成しそのお店に向かう。



食事を待っている間の話。

「エリーって"グレース"みたいなところあるわよね。時々変なこと口走ってるし。 」

ミリアからそんな言葉が飛び出した。

リリアも少し考えている。


なんで? 勘づかれるようなことは……

普通にしてるよ!!

商品開発して、ほぼ自分だけで取引して。


「それは……」


「ふふっ、冗談よ。

エリーのお姉さまの優秀さを考えると違和感ないもの。」

ミリアはそう言う。


ミリアとしてはちょっとした冗談だったのだろう。

しかし、私は肯定も否定も出来ず、微笑み返すことしか出来なかった。

でも、いつかは話そうとも決めた。

私が商会を経営していく上でいつかは誤魔化しきれなくなるだろうし、私の気持ちを尊重してくれるだろうから。


すぐに食事が来て私たちはお昼を楽しんだ。

最近、商会で忙しかった話がほとんどで、「小学生あたる子供たちの会話がこれでいいのか?」とは思ったけどね。



私は帰って、お父様、お母様そしてリアナ先生と話した。私が"グレース"である可能性があることについてだ。これでも帰りの場所のなかで話すかどうかはかなり悩んだ。もしかしたら気持ち悪がられるんじゃないか。そうでなくても悲しい顔をされるんじゃないかと。


おそらく受け入れてくれるだろうと思っていた。

でも、その保証はなかった。娘じゃないと言われる可能性もあった。"私"が記憶を思い出すまでの本当の"エリー"はどこにいったのかと訊ねられる可能性もあった。

"私"はこの人たちの優しさに触れて本当に暖かい気持ちがした。

それと同時に"相崎英莉奈"にとっての家族や友人の存在を思い出した。この数ヶ月で"英莉奈"は死んでしまったことを受け入れたはずだったのに。こっちの世界でも家族は本当にいい人たちだし、親友もできた。でも、前の家族や友人を忘れられるわけではない。もう二度と会えないという事実がそこにあるだけだった。優しさに包まれたからだろう、余計に思い出して涙が止まらなかった。


私が泣き止むまでお母様はずっと私を抱き締めてくれていた。



その後の夕食の席で私は自身が"グレース"であることを話した。


夕食の前。

泣き止んだ私にお父様が訊ねた。

「どうする?

私たち以外にも話すのか?」

「今はまだ話せませんが、ミリアたちには追々話そうと思っています。

ですが、お兄様たちにはちゃんと話しておきたいと思います。」

伝えなくても問題はないが伝えようと思った。

お父様たちだって受け入れてくれたのだから。

それに家族に隠し事はしたくなかったから。

いや、ただ自分が楽になりたかっただけなのかもしれない。



モリスお兄様が口を開いた。

「なんだ、そんなことか。

とても深刻そうな顔をしているからどうしたのかとおもったけど、僕はそんなこと気にしませんよ。」

いつも通りの口調だ。


「モリス!エリーは本当に悩んでいたのだからそんな言い方はないだろ!」

バチストお兄様がそう言った。


「エリーは自分が受け入れてもらえるか不安で話したのですから、僕たちは今まで通りいいんじゃないですか。」


「エリー、そういうことでいいのか?」

バチストお兄様に訊ねられ、私は頷く。


「僕も気にしません!」

ロランもそう言ってくれた。


気持ちがいくらか楽になった。



食後、私はお姉さまに話しかけられた。

「エリー、後で私の部屋に来てくれる?」

そういえば食事のとき、お姉さまだけは何も言っていなかった。少し不安を感じた。


私は一度部屋に戻りお姉さまの部屋に向かう。


「失礼します。エレノアです。」

「来たわね。」

お姉さまに促され私は向かいに座る。


「あの、お姉さま…」

「エリー。不安になるのもわかるけど私たちをもっと信じてくれてもいいじゃない!」


!!…不安な気持ちが顔に出ていたのだろう。


「お姉さま……」

私は再び泣き出してしまった。

お姉さまはそんな私の横に座り、お姉さま自身も少しだけ泣きながら私を優しく抱き締めてくれた。


暖かかった ……


「エリー。」

「何ですか? お姉さま。」

「今日は一緒に寝ないかしら?」

「??」

「お兄様やモリス、ロランは兄弟仲良く一緒に寝てたこともあるのよね。私だってそんなことしてみたいのよね。」


私は一度部屋に戻ってルイーシャに就寝の準備をしてもらい、再びお姉さまの部屋へ向かう。


「いらっしゃい。エリー。

なにして遊ぶ? お菓子も用意してあるわよ。」


…一緒に寝るんじゃなかったっけ?


「あの、お姉さま…これは?」


「寝る前に少しぐらいいいでしょ?」

お姉さまがにっこりと微笑む。

「そうですね。」


私たちはお菓子を食べて、ゲームをして楽しんだ。


満足した私たちは一緒にベッドに入る。

「おやすみ。エリー。」

「おやすみなさい。お姉さま。」

そうして眠りについた。

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