第6話 入学
今日は入学式典が行われる。
入学式典は中等部への進学、そして初等部入学を祝って行われるため、初等部と中等部の全生徒が参加する。
「初等部新入生の方々、中等部へ進学した方々おめでとうございます!
この学院では……………」
話が長い…… あと、あんまり聞こえない。
なんか朝礼での校長先生の話を思い出すよ。
1つだけ話しますとか言ってその一つの話が長い上に1つだけじゃなかったりするやつ。
「それでは皆さんパーティー会場に移動してください。」
生徒全員が会場に移動する。
「はい、皆さん~!学院長に注目してください!」
「それでは皆さんの入学そして進学を祝して乾杯をしたいと思う。 乾杯!」
「「「乾杯!」」」
「ねえ、ミリア。何から食べる?」
「せっかくだし、色々見てから決めましょうよ。」
「そうね。ところで名前の呼び方とか気を付けた方がいいのかしらね?」
「確かに。 私たちだけじゃないものね。」
一ヶ所に人だかりが出来ていたので私たちも見に行く。
「子牛の丸焼きですって。エレノア様行きましょうか。」
え? 子牛そのままなんですけど…
ちょっとグロテスク…
美味しいことを信じて食べることに決めた。
「ええ、そうね。行きましょうか。」
切り分けてもらった子牛を一口食べてみる。
うぇ……血生臭い。美味しくないよ!!
ついでに生焼け……
確かにこっちに来てから口に合わないものも多かったけど、ここまで不味いものは初めてだよ!
パーティー的に見栄えはいいけどさ!
「普段あまり食べない、珍しい味ですね…」
ミリア様もこう言ってるし!
不味いんじゃん!
「おいそこの2人! 邪魔だ!」
口直しに色々食べていると、突然後ろから声がかかった。
後ろを振り返ると男子生徒がいた。私たちと同じデザインの青いバッジを着けているから私たちと同じ初等部一年のAクラスだ。
「なんでしょうか?」
「『なんでしょうか?』じゃない!
俺は入試成績5位でワロン子爵家長男のドーラン・フォン・ワロンだ。
5位の俺になんだその態度は?」
「入試成績はそんなに重要なのですか?」
「ハッ!そんなことも知らないのか!
学院案内を読むといい。この学院では親の貴族の位は関係なく、個人の実力を尊重するものと書いてある!
だから、お前らは俺に退けと言われたら素直に退くものなのだ。」
うっわ!! え~っと…
ワロン子爵は、確かコーリアス派だったな~
コーリアス派って本当に残念な人たちなんだな……
呆れて反応に困るよ…
て言うか、その学院案内の説明意味わかってるのかな? むやみやたらに親の権力振りかざすなよってことだと思うんだけど…
優秀な平民の権利を守るためのものよね?
でも、私たちにとってもその勘違いは都合がいいから、構わないんだけどさ。
大いに利用させてもらおう!
私たちはお前みたいに自分の成績を鼻にかける小さな人間じゃないんだよ。
「私はルミナリア子爵家のエレノア・フォン・ルミナリアと言います。入試結果はですね、その日あまり調子がよくなくて…」
「さっさと言えよ。5位の俺はお前らみたいにギリギリAクラスに入った成績底辺と違って有望で忙しいんだよ!」
訳のわからないことをほざくドーラン。
「1000点中975点で1位です。
調子が出なくて実技が375点だったのですよ。
本当、私もまだまだです…」
私はそう言いつつニッコリとドーランに微笑みかけた。
「私は入試成績2位。ミライブ男爵家のミリア・フォン・ミライブです。実技は1位ですわ。」
ミリアも私に乗っかった。
私たちの言葉を聞いてドーランに焦りの色が浮かんだ。
「で、入試成績が何でしたっけ? あなたは何とおっしゃってましたか?
私たちにそのように言える権利がおありなのですよね~
さぞかし優秀な方とお見受けしますが、一体どれ程の入学成績を納められた方なのでしょうか?
私は自分より高成績の方を知らなかったのですが、まさかいらっしゃるのですかね?」
私は笑顔でドーランを責める。
「くそ! うるさい!!」
ドーランはそう言葉を吐いてその場を去っていった。
「エレノア様、楽しそうでしたね。」
そう言いながらミリアは横で笑っている。
「…自覚はありますのでこれ以上言わないでくれませんか?」
「面白そうだから話に入り込むのをやめたが、エリーにあんな笑顔があるとはな。」
「ロイド様!? ……………」
ルシアス伯爵家長男ロイド・フォン・ルシアスは私の従兄弟で、学院中等部。
もしかして聞かれたかな?……
「クラリス様から、エリーがコーリアス派に絡まれた時の手助けを頼まれていたが必要なかったな!
これはクラリス様が聞いたら喜びそうだ!」
やっぱり聞かれてた~!!!
「……やめてください。
お願いですから言わないでください!
はたから見て性格が悪くなっていたことはわかっていますから…」
ミリアも横で笑ってるし。
そういや、ロイド様の後ろの女子生徒は誰だろう?
「この話は忘れてください。
それよりもそちらの方は?」
「そうだ! そのために来たんだったな。
彼女はアルジエル公爵家の長女、クレア。同時に、生徒役員の会長だ。」
「ご紹介にあずかりました、クレア・フォン・アルジエルです。
エレノア様にミリア様ね。2人のことは噂になっているし、それにロイドからもお話は聞いているわ。」
「初めまして、クレア様。ミリア・フォン・ミライブです。」
「初めまして、クレア様。エレノア・フォン・ルミナリアです。
ところでロイド様、生徒役員とは何なのですか?」
「入学したてでまだ知らないか。
学院で行われるパーティー等様々なことの運営を行う機関だ。初等部と中等部合わせて1つの生徒役員組織。高等部にまた1つある。役員になるには、成績優秀者であること。その上、入りたくても既存の役員から過半数の賛成を取れないと入ることはできない。もしくは、会長、副会長、教員の誰かに推薦してもらわなければならない。」
いわゆる生徒会ね。
でも、かなりの権限を持っているようだし、それに伴う責任も桁違いみたいだ。
「役員になることにどのような意味があるのですか?」
「生徒役員であったことは後々大きなステータスとなる。貴族であればよい役割に就きやすくなる。
貴族でなくても、商会なら信用となるし、執事やメイドなら長となりやすくなる。時には貴族の養子や婚約者になれたものもいる。」
「ここからが大事な話なのだけど、あなたたち2人とも役員になりませんか?
会長の私と副会長のロイドが推薦します。
本当は推薦も募集も、授業でマナーについて学んで、その後の試験も終わった後なのだけどね。
どうかしら?」
「やはり、役員は忙しいのですか?」
「成績上位者しか入れないからそこまでではないわね。役員は補習講義が免除されるの。
まあ、一般講義の復習だから必要ないというか…
その講義を受ける必要がないレベルを求められるというか…」
「私は生徒役員への参加を希望します!
エレノア様もそうするわよね?」
「ええ、でしたら私も希望します。
ロイド様とクレア様のことも気になりますし。」
クレア様の顔が少し赤くなった気がした。
「エリーは何を言っているのだろうね?」
ロイド様は誤魔化そうとする。
「ロイド様、さすがに見ていてわかりますよ…」
「もしかして、ミリア様もわかったのかい?」
「え? あの、なんのことですか?」
え? ミリアはこんなにわかりやすい2人を見て気がつかないのか!
「エリーさえ気づかなければ…
もういいよね、クレア?
つまり、私とクレアが恋人関係にあるということ。
クレアが降嫁することになっているんだ。
お互いの両親も知っていることだけど、他の人には言わないで欲しい。
派閥関係とかもややこしいから。」
「わかりました、ロイド様。
ただし、お2人とももう少し自重しませんとまるわかりです。」
「助かるよ。」
「自重と言っても、学院では皆砕けた話し方をしているわ。だからまるわかりというわけではないと思うのだけど…
というより、案外皆こんな感じよ。
あなたたちも普段はもっと砕けてるんでしょ?」
敬称をつけてないし仲も良かったからと予想したわけなんだけど、私が変に深読みしたら偶然当たっていたということか…
ロイド様クレア様、ごめんなさい!
「そうですね。
一応パーティーなのでと思い、気を遣っていたのですが。」
「はじめはそうよね。
私たちはそろそろ行くわ。
2人ともパーティー楽しんでね。
役員については後日連絡するわ。」
「はい。失礼します。」
「失礼します、ロイド様クレア様。」
バチストお兄様とクラリスお姉さまは高等部なので会えなかったが、モリスお兄様とロランお兄様には会うこともでき、私とミリアは残りのパーティーを楽しんだ。
「初等部新入生以外の生徒は該当の教室に向かってください。」
何人もの生徒と先生がパーティーの終了とともに生徒に移動を促していた。おそらく退場を促している生徒が役員だろう。
1年だけが残り、1年もすぐに先生の指示に従いクラスごとに移動していく。
私たちも教室に向かい、席についた。
席は成績順のため私はミリアと隣だ!
「では改めまして、皆さん入学おめでとうございます!
私はこのクラスを担当します、イザベラです。
よろしくお願いします。
それでは皆さん、まずは自己紹介をしていきましょう。エレノア様変わりから順番にお願いします。」
「私はエレノア・フォン・ルミナリアです。
貴族ですが、多くの人と仲良くしたいと思っております。
これからよろしくお願いします。」
「私はミリア・フォン・ミライブです。
皆さんよろしくお願いします。」
「ルード・フォン・エルンストだ。
筆記試験には自信があったつもりだが、自分の未熟さを学ぶことができた。
この学院でより学び自分に誇りを持てるような人間になりたいと思う。
これから皆と共に学んでいけるように努力するつもりだ。よろしく頼む!」
エルンスト家はアルジエル派だから安心安心。
「私はミナと申します。
実家は護衛や高速郵便をしています。
皆さんよろしくお願いします。」
ミナも戦える家か!
先生に勝ったのも納得納得!
護衛はともかく郵便業の家がなぜ戦えるのか。
それは、手紙のみを扱う高速郵便は時間短縮のためにかなり少ない人数で輸送するからだ。輸送の際、その少ない人数で盗賊や野生動物を撃退しなくてはならない。そのため、精鋭となるわけである。
「ドーラン・フォン・ワロンだ。
身分はしっかりとわきまえた上で話しかけてくれ。」
……駄目だこりゃ
すごい残念っぷり!!!
その後の自己紹介は無事に済み、今日はこれで終了となった。
「エリー、これからどうする?
どこかでお茶でもする?」
「今日は少し寄りたいところがあるんだけど。
面白くないかもしれないけどミリアも一緒に行く?」
「ええ、せっかくだしね。」
門で護衛と合流して目的地に向かう。
私の護衛はリアナ先生だ。
お父様によるとバチストお兄様よりも強いらしい。
リアナ先生は万能すぎてありがたいよ!
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