第3話 お披露目会~挨拶~
「エリー、今日は頑張ってね。 リアナも大丈夫って言ってるし大丈夫だと思うけど、ね…」
「お母様、私のエリーならきっと大丈夫ですよ。」
お姉さまが言う。
最近わかったのだがこのお姉さまは少しシスコン入ってるんだよね…
て言うか、いつから"お姉様の"になったんだ?…
「でも… 時々抜けているし。 大丈夫かしら?」
…失礼な!!
「お母様は少し心配しすぎですよ。
紹介パーティーですから少しぐらい抜けていても問題ありませんわよ。」
お姉様もフォローになってない!!
「学院の入学パーティーで他の生徒、特にコーリアス派がどれほど酷いかご存知でしょ? あれとエリーを一緒にするのはよくないとは思いますがアルジエル派でも今のエリーほど貴族の立ち振舞いが出来ていた方などほとんど居りませんよ。
エリー、だからあなたはいつも通り振る舞えば大丈夫よ。」
どこからつっこめばいいのかよくわからないが、取り敢えずは紹介パーティーに集中することにしようと思う。
「わかりました、お姉さま。頑張りますね。」
招待客がやって来た。お父様、お母様たちは玄関すぐのホールで応対をするために行ってしまった。
私はパーティーの主役である上、今はまだ社交デビューしていないので玄関先で迎えることはなく、後で会場にいく。
私が別室で待っていると、ふいに声をかけられた。
「ごきげんよう、エレノア様」
「リアナ先生!? どうしてここにおられるのですか?
会場はこちらではありませんよ。」
私の驚いた表情にフフッと笑って、リアナ先生は言った。
「私はエレノア様の専属教師ですから招待客ではありませんよ。お披露目会では紹介する子息令嬢の側にその専属教師が控えているものですよ。なにせ、始めての社交の場ですので対応の仕方がわからなくなったりもしますからね。
それに、全体への紹介挨拶の後の個人挨拶ではヴィクトル様も横にいらっしゃいますから緊張する必要はありませんよ。
本日は私もお側にいますのでなんなりと頼ってくださいね。」
「ありがとうございます。」
ルイーシャがやって来て来賓の方々が揃ったことを伝えた。
「皆様、お席に着かれたようですね。
それでは行きましょうか。」
リアナ先生がそう言い、私たちは会場へ向かう。
こんなに人がいるのか…
やっぱり緊張するなー
落ち着いていこう!
「ご来客の皆様、本日は私のお披露目会に来てくださり、誠にありがとうございます。
本日より社交デビューとなりますエレノア・フォン・ルミナリアです。今後は社交デビューを済ませた貴族としてより一層励んでいきたいと思います。
まだデビューしたての不束者ですが、皆様どうぞよろしくお願いします。」
拍手と共に私は自分の席に向かう。お父様の席の隣だ。
「やはり、ルミナリア子爵家の子供だな。」
「そうだな。子供とは思えないほど礼儀もしっかりしているようだし。」
あちらこちらから称賛の声が聞こえた。
この家は対外的な評判がかなりいいらしい。
ふぅ、うまく出来たかな?
でも、前世の大学生としての記憶に自制心があったのに授業が大変だったのは…… この世界ではこのくらい当たり前という訳じゃなくてこの家が優秀だったのか!
皆驚いてたし…
それはそうと、次はそれぞれに挨拶を交わしていかなければならない。
まずは平民の人たちからだ。
「オルミスト商会のダストと申します。
本日はエレノア様のお披露目会にお呼び頂けたことを心から嬉しく思います。
何か要り用の物がありましたら是非ともおっしゃってください。商会の誇りにかけて全力で揃えさせていただきます!
また、商品のアイデア等がありましたら是非ともお声かけください!」
「オルミスト商会は家が懇意にしている商会だ。
ダストはリアナの兄にあたるから信用もできる。
商品のアイデアと言うのはクラリスがデザインを提案したアクセサリーがかなり売れたからな。お前のアイデアも今後楽しみなのだろう。」
え? アイデアの話は「あなたは優秀ですね」って相手を持ち上げるための社交辞令か何かだと思ってたのだけど…
お姉さまはやっぱり流石だ!
でもそのお姉様と同類にされても困るというか……
それにリアナ先生は商会の娘だったのか。
「はい、よろしくお願いしますね。」
私はダストさんにそう返す。
「洋裁師のイリアです。
このような紹介パーティーに呼んでいただけるとは感銘の至り!
新しいお召し物を注文なさる際は是非私に!
エレノア様のお姿に似合うお召し物を死んでも作って見せますので!!」
この女の人、目が怖い…
満足するおもちゃを見つけたような目…
私は助けを求めてお父様を見た。
お父様は苦笑いしながら
「イリアは…まぁそういうやつだ。
興奮しだすと回りが見えなくなる。貴族によっては不敬罪とかになりそうだがな…… 悪意があるわけでもないし、服飾に関しては絶対的な能力がある。」
お父様がこれほど評価する人なのか。
私もまだまだ人を見るが足りないのか。
いやいや! 初印象は誰がどう見てもただのおかしな人でしょ!
「注文するときは用途をしっかり伝えるように。
でないと、完全に個人の趣味の物を作ってくるからな。クラリスの服の注文したときにひどい目にあったよ…
それでも似合ってはいるんだがな、実用的かと言えばな……
凄いヒラヒラしていたりな。」
お父様が苦笑いしながらそう言った。
……信用できるならもういいか!
「イリアさん、これからよろしくお願いします。」
「よろしくお願いします、エレノア様。
是非是非御注文お待ちしております!!
エレノア様であれば…」
そう言いながらイリアさんはぐいっと近づいてくる。
近い!近いよ!!
……もう前言撤回していいかな?
「あの… イリアさん?」
「…失礼しました~!!
今後よろしくお願いしますね、エレノア様。」
「はい、よろしくお願いします…」
他にもルミナリア子爵領の農業部、漁業部、建築・
交通部の代表たちが来てくれていたりした。
わざわざルミナリア子爵領からはるばる王都までありがとうございます。
貴族との挨拶は普通に丁寧に受け答えするだけでなぜかすごく誉められた…
「コーリアス派の子供たちもこの子の10分の1でもしっかりしていれば…」と呟いている人もいた。
褒められるのはいいんだけど、ろくな評価を聞かないコーリアス派と比較されてもどう反応していいか困るんだよ…
もう少し平均的な人たちと比べてくれないかな?
お父様の表情が少し変わった。
誰か気になる人でもいるのか?と思ったが…
「これはこれはルシアス伯爵。そして伯爵夫人、お久しぶりです。」
「お久しぶりです。エイル叔父様、レイン叔母様。」
私もお父様に続いて挨拶をした。
「お久しぶりです。ルミナリア子爵。」
「お久しぶりですね。ルミナリア子爵。」
「「エリーはデビューおめでとう!」」
叔父様と叔母様の2人からお祝いの言葉をもらう。
ルシアス伯爵家はお母様の実家である。
ルシアス伯爵家の構成はこんな感じ
エイル・フォン・ルシアス
(お母様の兄にあたり、現当主)
レイン・フォン・ルシアス
(エイルの妻)
グラン・フォン・ルシアス
(エイルの父)
エーリア・フォン・ルシアス
(エイルの母)
ロイド・フォン・ルシアス
(エイルの息子、私の従兄弟にあたる)
「そういえば、グラン殿はいらしていないのですか?」
「えっと、それは…」
叔父様は何かを言いにくそうにしている。
「その、父上はエリーが倒れたことを聞いて、本当に心配しておりました。
ただ、治ったことを聞いてからも『エリーは!?』と騒がしすぎましたので…
ですので、本日は父上のことは母上とロイドに任せてきました。
とても心配なさっていたので、後日会いに来ていただけたらと思います。」
叔父様ははにかみながらそう言った。
「是非!
いいですよね、お父様? 」
「あぁ、そうだな。
近々伺う旨をルード殿にお伝えください。」
お父様もそう答える。
「エリーは本当にすごいわね。
まるで5歳じゃないみたいね!
では、また今度いらっしゃいね。」
叔母様はそう言って、叔父様を連れて戻っていった。
中身は5歳じゃないです、はい。
なんか、罪悪感があるような、ないような…
まあ、褒められたのでよし!
「エレノア様初めまして。
お久しぶりですルミナリア子爵。」
「お久しぶりですね、ルミナリア子爵。
エレノア様は初めましてですね。」
「アルジエル公爵に公爵夫人ではありませんか、来てくださったのですか、ありがとうございます。」
お父様のその返しで目の前にいる人が誰かわかった。
「私は近衛騎士団団長をしております、グレイ・フォン・アルジエルです。」
「私はグレイの妻のエレミア・フォン・アルジエルです。」
この人たちがアルジエル派閥の筆頭のアルジエル公爵家なのか。
これは、しっかり受け答えしなくてはいけないな。
「アルジエル公爵そして、アルジエル公爵夫人初めまして。エレミア・フォン・ルミナリアと申します。本日のお披露目会にお越しいただきまして誠に感謝いたします。貴族としてまだ至らない点も多いと思いますがどうぞよろしくお願いします。」
「ルミナリア子爵、1つ聞いてもよろしいか?
この挨拶は専属教師が考えているのか?
一般的には子供には1つの挨拶を覚えさせて、それを繰り返して横にいる父親と専属教師が対応するものだ。それなのに相手によって挨拶が少しずつ異なっている。
覚えるのは大変だっただろう。」
アルジエル公爵の問いにお父様が答える。
「いえ、専属教師が考えたものではありません。
そうだよな、リアナ?」
「僭越ながら申し上げさせて頂きます。
私が考えたわけではありません。 最初の挨拶も含め、エレノア様が全て自分でお考えになりました。
エレノア様自身の判断に任せることも1つの学習になると思いまして。」
「なんと…
すまないな、こんな内情を聞くべきではなかったことは理解してはいるが、それでも気になってしまってな。」
「本当にグレイは何を聞いているのですかね……
でも、エレノア様凄いわね。」
公爵夫人が公爵を窘めている。
「お気になさらないでください。
こんなデビューしたばかりの子供がちゃんとした挨拶など出来るものなのかと疑われるのも当然ですから。
お褒めにあずかり光栄です。」
「ふふっ 自分で自分のことを疑われるのも当然と言うものではありませんよ。」
「これは失礼しました。アルジエル公爵夫人。」
「いやいや、優秀すぎるって褒めてるのよ。
もっと誇っていいのよ。」
「ありがとうございます。」
「これは先が楽しみね。」
公爵夫人がお父様にそう言う。
「はい、私どもも勉学に関しては兄弟のなかでも最も優秀になるのではないかと思っております。」
「いえ、私はまだまだ及ばないと思っています。
バチストお兄様やお姉さまは特に。」
「今でこれだけ礼儀が出来ているのであれば十分よ。
そんなに謙遜する必要もないですよ。それに謙遜しすぎると嫌味と捉えられることもありますからね。 」
「御助言、感謝いたします。」
「まだ挨拶があるようだし、そろそろこれで。」
アルジエル公爵はそう言って去っていった。
次で最後のようだ。
「エレノア様、初めまして。
ルミナリア子爵、お招きいただきありがとうございます。
私はロイド・フォン・ミライブ。王国騎士団で師団長をしています。
そしてこちらは妻のレオナです。」
「レオナ・フォン・ミライブです。
初めまして、エレノア様。
素晴らしいご挨拶でしたよ。」
「お褒めのお言葉ありがとうございます。」
「ミライブ伯爵は私の学院時代からの友人だ。」
お父様のご友人か。
「先日お披露目会を行ったばかりの子供を連れてくるのは失礼かと思いましたが、本日はぜひ紹介させていただきたいと思い連れてこさせていただきました。
こちらは私の娘のミリアです。」
「は、初めまして。ミリア・フォン・ミライブです。」
ミライブ伯爵が紹介してきたのは私と同じくらいの娘だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます