第2話 屋敷での授業
「エレノア様、元気になられたようでなによりです。」
この人は私の教育係のリアナ先生だ。商人の娘であり家業は双子の兄が継いでいるので、ルミナリア子爵家で私の先生をしている。お姉様の教育係もしていたらしい。
「本日は、先々代王についての話からですね。……」
授業の内容をざっとまとめると先々代の王の時代に起こった戦争の功績で貴族になれた平民がいたなかで、貴族出身にも関わらずも別の兄弟が家を継いだことで継ぐ家がなく、また功績もないので貴族の当主になれなかったものが多くいた。
その不満が溜まっている状態で先代王の決定をすることになった。第二王子は人望がとても厚く、それに対して長男は血統主義といった人間だった。平民出身の貴族は第二王子の側に、貴族出身にも関わらず当主になれなかったものたちは第一王子の側についた。
結局第二王子が王位を継承することになり、第一王子は現コーリアス夫人の父親として貴族になった。
その派閥争いの延長が今のアルジエル派(旧第二王子派)とコーリアス派(旧第一王子派)となっている。
話を聞いて思ったけど…え?
かなりドロドロしてる……
うまくやれる自信はあるか?って言われたら…もちろんありませんね!!
ヤバい貴族の人を変に刺激したら殺されたりするのかな?
「…エレノア様? 聞いておられますか?」
内容を反芻して、心の中で一人で喋りまくっていた私をリアナ先生はずっと呼んでいた。
「…はい! 聞いています。」
「……本当ですか?」
リアナ先生がジトーッと私を見ていた。
「人間関係が大変そうだなと思っただけで…」
少し顔をそらしながら私は答えた。
「確かにコーリアス派と関わるのはかなり大変ですね。ただ、貴族であるならば敵対派閥の前はもちろん、どんな貴族の前でもそんな弱気な発言は駄目ですよ!
漬け込まれますからね!」
貴族社会…怖そうだ…
その後も筆記の授業は続いた。
「ここまでで一旦休憩にしましょうか。
それにしても、エレノア様は優秀ですね。」
「お褒めの言葉 感謝します。」
「先程お教えした内容は王都学院で習う歴史も含まれていますのに。
入学前の子供が理解なんて出来るわけがありませんから、普通はどこの家が敵対派閥に属しているかを教えるだけですからね。」
ん? 今、他の子供を蔑まなかった?
気のせいでしょう…そう思っとこ……
「では、次は貴族としての立ち振舞いを練習しましょう。とはいえ、時々抜けていることはあれど基本的には出来ていますからね。貴族だからといって貴族でない私に傲慢な態度をとることもなさいませんしね。」
あれ?雲行きが…
私地雷踏み抜いてないと思うんだけど
そうだよね??
「……それに比べて、コーリアス派は取り柄のない落ちこぼれのくせに貴族の子供としての権力だけを振りかざすのがどれ程いることか……
『俺、私のような貴族のために働けば… 貴族に頼まれる平民とはなんと名誉なことか!』なんてほざきなさるのでね。」
リアナ先生はすっごいしかめっ面をしていた。
それだけ面倒くさい人間が多いということだろう…
「…あの~、先生?」
「!! 誠に申し訳ありません。取り乱してしまいました!
この話は旦那様にはどうかご内密に…」
「勿論ですよ。
先生も苦労されてるのですね」
「コーリアス派は本当に…
エレノア様もコーリアス派と関わる際はお気をつけください。自身の親の方が爵位が高いと権力を振りかざしてきますので。
脱線してしまいましたが、次は立ち振舞いを練習しましょうか。
エレノア様はもう少し自分を立てた方がよろしいですしね。それに、権力バカへの対応も含めて…」
権力バカって言った?言ったよね??
リアナ先生がそこまで言っちゃう人たちと関わりたくないー!
その後は普通に立ち振舞いの授業が行われ、終了した。
次はバチストお兄様に訓練を見てもらうことになっている。
貴族が命を狙われるのはよくあることだそうで、女性でもある程度は戦えないと危険らしい…
何度も思ってるけど、貴族社会怖すぎでしょ!!
平和な世界、カムバック、プリーズ!
「バチストお兄様!よろしくお願いします。
…クラリスお姉さまにロランお兄様もいらっしゃるのですね。けれど、モリスお兄様はここにはいらっしゃらないのですか?」
「クラリス、ロランはエリーと一緒に訓練するわけだからな。モリスは…ルミナリア子爵騎士団の模擬戦に参加している。」
そういうバチストお兄様は邪悪(?)な笑みを浮かべていた。
「それは先日の夕食の時のお話ですか?」
「模擬戦をするのはいつも通りだ。
ある程度剣を振るえるようになったらエリーもやることだ。ロランもクラリスも時々やっている。
モリスの一日辺りの模擬戦の回数は増やしたがな」
…訓練は言葉通り増やされたのか
モリスお兄様頑張ってください!
「それでは始めるぞ。
まずは基礎体力作りからだな」
走って、素振りをして、走って、体幹鍛えて、素振りをして、バチストお兄様に剣を打ち込んで…
疲れたーー!!もう動けません…
「お兄様、そろそろエリーも限界かと思われますが…」
私が体力の限界を迎えているところにお姉様が声をかけてくれた。
「そうだな。今日はこれで終わりにしよう。」
「バチストお兄様、ありがとうございました……」
……本当にさ、バチストお兄様スパルタすぎる!
いや、本当にしんどいよ!!
休憩なかったんだけど…明日は筋肉痛確定ですね…
クラリスお姉さまが止めてくれたからよかったものの…
いや、出来ればもう少し早く止めてほしかったんですけどね!
いくら手加減してくれてるとはいえ、なんで訓練初日でバチストお兄様と模擬戦までするのかな?
はじめのうちは素振りとか体力作りだけじゃないの?
型をある程度習ったらすぐに模擬戦って…
「経験あるのみ!」
ってバチストお兄様は言うけど、あなたは昭和の人間ですかーーー!!
「動きを覚えるのは早いが身体がそれについていけていないな。
それでも初めてにしては上出来だな。
すぐに出来るようになる。」
「…はい、バチストお兄様」
初めての訓練で身体がついていくわけないでしょ!
「エリー、立てるか?」
「…少し休めば」
「そうか…
ロラン。ルイーシャを呼んできてくれ。
そして、夕食までに湯浴みを済ませるように言っておいてくれ。」
「わかりました。」
ロランお兄様がルイーシャを連れて戻ってきた。
「エレノア様、お疲れさまでした。
湯浴みの準備も出来ております。」
「ありがとう、ルイーシャ」
結局、立ち上がれなかった私はルイーシャに抱えられて屋敷に戻ったのだった。
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