第25話 ヴェレトカレン

 国王の命がいよいよ長くないとと知り、これ見よがしに、親切ぶった顔の下に露骨な好奇心を滲ませて、カレンのもとへやって来る貴族は後を絶たなかった。

 彼らは判を押したように、同じことしか言わない。そのくせ、自分だけは特別なのだと言いたげに、思われぶりな表情で、さも国を揺るがす大事とばかりにそのことを口にする。

『王子殿下は陛下の実の御子ではありません』

『殿下は玉座の簒奪を企てています。複数の有力貴族を取り込んで、独自の兵力を保有しています』

『このままで良いのですか、王女殿下。王家の血を引かぬ者が、玉座につこうとしているのですよ』

『陛下がご健勝であられた頃は、王女殿下を大変可愛がられておいでで、いずれは婿を取らせて女王として即位させたいとまでおっしゃっておいででした』

『私どもは、王女殿下のお味方です。殿下がお命じくださるならば、我が一族は全力を挙げて、ヴェレトカレン王女殿下にお仕えいたします』

 くだらない、とその度にカレンは思う。玉座などカレンが欲しがると思っているのだろうか? そんなものは兄が手に入れれば良いのだ。カレンが心から望むものはただ一つ――ただ一人だけなのだから。

(あなたたちは考えもしないでしょうね。わたしからカレンを引き離そうとした貴族たちには、わたしがどれだけカレンのそばにいたかったのか、わかりもしない。誰もわたしの気持ちなんて訊かなかった。誰もわたしの望みなんて知ろうとしなかった。それなのに――今更、)

 王女殿下の望みが何なのかわかっておりますと言いたげな作り笑いに、罵ってやりたくなるのをいつも堪えていた。

 この日も、すでに何人目になるのか、貴族の来訪を迎えていた。来客など断れと言っているのに、侍女たちはどれほど袖の下を積まれるのか、あの手この手でカレンへ面会を取り次ごうとする。

 どうでもいい貴族たちの訴えを、カレンは物憂げに目を伏せて、ただ聞き流していた。

 その時だった。

 ふいにカレンは顔を上げた。鐘の音が聞こえた。

 気のせいかと思った。先ほど、時刻を告げる定鐘が鳴ったばかりだ。

 だが、鐘は鳴り続けた。いつまでも。いつまでも。

 その理由に思い至った瞬間、カレンは王女らしい振る舞いも忘れて、椅子を蹴倒して立ち上がった。

 弔鐘――――それは国王崩御を告げる、鐘であった。

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