第19話 シェルリオール

 カレンの住まう離宮に戻ることを許されないまま、この王宮に留めおかれて、もうじき二年が経つ。


 この身がロッドラント王に見初められたことは、王子の、そしてその共犯者たるわたくしの大きな誤算だった。そのせいで一年は計画が延びてしまったと王子は言った。

 仮にも国王の手のついた女に、世継ぎの王子が堂々と接触を図るわけにはいかない。自然、やり取りをする手段はかなり限られてしまい、以前のように頻繁に連絡や相談はできなくなった。


 本来の計画では、カレンが十八歳になるまでに実行に移る手はずになっていた。それには明確な理由がある。ロッドラントの王女のほとんどは十八歳を過ぎて婚約することが多いからだ。

 カレンに婚約してほしくないという一点で、わたくしと王子との利害は一致していた。王子にとってはカレンの婚約など、「婚約者だなんて明確な後ろ盾ができてしまったら、殺すに殺せなくなる」ということなのだ。

 わたくしにとっては、カレンが誰かのものになることなど、そしてわたくし以外の誰かがカレンのものになることなど、到底許せることではなかった。

だから、カレンをなんとしても結婚させないという点において、わたくしたちの目標タイムリミットは明確だった。


 いま、カレンは十七歳と七ヶ月。次の誕生日までは半年もない。

 カレンが婚約者という強力な後ろ盾を得るよりも先に、わたくしたちは現ロッドラント王を殺し、世継ぎの王子を表立っては正当な手段で即位させなければならない。

 その際に新王の血筋への疑念を持ち出す者がいるだろうことは折り込み済みで、兵や軍備や必要物資はすでに王子が手配している。万一、複数の有力貴族の家が手を組み兵を挙げたとしても押さえ込めると断言していた。


 王子が無事に即位した後、わたくしは彼と結婚することになる。そしてはじめに生まれる息子がロッドラントの玉座を継承し、二番目に生まれる息子が属国としてのステラリオンを治めることになる――その子が成人するまでは、ロッドラント王妃を名乗るわたくしがステラリオン王の摂政として、あの懐かしい祖国を治めるのだ。

 ステラリオンは、一度滅ぼされたとはいえ、自国の王家の血を引く統治者を迎えることができる。一方のロッドラントは従順とほど遠く厄介なステラリオンの民の統治をおおっぴらに手放すことができる。わたくしの利益と王子の利益は、このような形で合致する。


 そして、カレン――わたくしのカレン。

 ロッドラント王の正当な血を引く唯一の王女であるカレンを、王子は疎んでいる。いずれ面倒の火種になるからと殺したがっているほどに。

 だからわたくしは、彼女をステラリオンに連れて行くことと引き替えに、その助命を王子に約束させた。もちろん、すべてが片付いたのちに。これは王子にとっては最大限の譲歩だろう。

 計画は修正され、可能なかぎり万全に整えた。あとは機を待つだけだった。

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