第3話
わたしは十三歳で宮中の行事に顔を出すようになった。
その頃には、わたしも、ルゥがどのような経緯でこの城に来ることになったのかをなんとなく知っていた。
大人たちはわたしがどれだけルゥを可愛がっているのか知っていたから、その話をわたしの耳に入れたがらなかったけれど、自然と噂は聞こえてくるものだ。
女官たちの世間話や、誰かがうっかり漏らした話の断片から、わたしはルゥの生い立ちがどんなものなのかを知った。
八年前の戦でルゥの祖国ステラリオンは滅ぼされ、ルゥの両親であった王と王妃、ルゥのきょうだいであった王子王女たちは全員死んでしまった。その中には、自死した者もあれば処刑された者もいる。
まだ幼かったルゥだけは、女ということもあり、処刑をまぬがれてロッドラント宮廷へ連れてこられた。
そしてたまたま、ロッドラント王女ヴェレトカレン――わたしと同い年であったから、遊び相手として、人形という名目で与えられた。
ルゥが自分の立場をどう思っているのかを口にしたことは一度もなかったし、わたしも訊ねたことはなかった。――そんなこと、できるはずがない。ルゥから見れば、わたしは祖国の仇の娘だ。わたしの父、ロッドラント王がステラリオンを滅ぼした。
わたしは、ルゥの両親、兄と姉たちを殺した男の娘なのだ。
父のことを、ロッドラントのことを、そしてわたしのことを恨んでいるかと訊いて、そうだと言われたら思うと怖くて、たまらなかった。わたしはルゥのことが大好きだけれど、ルゥも同じように自分を好いてくれている保証などどこにもないことに、薄々気付ける程度にはわたしも大人になっていた。
わたしとルゥの関係は、友人と呼べるような対等で遠慮ないものではなかった。もしもわたしたちが対等な間柄ならば、わたしがルゥを「人形」と呼ぶことなどなかったはずだ。たとえその目的が、ルゥを所有物扱いすることで周囲から守るためであったとしても、そう扱ったという事実は消えることはないのだから。
わたしはルゥよりも優位な、支配的な立場にあるのだと気付いた時には、わたしたちが出会ってから何年も経ってしまっていた。
わたしはそれまで、ルゥと対等な友人同士のつもりでいた。でも、それまでのわたしは自分の好きなようにルゥを振り回すだけで、ルゥの気持ちも、望みも、ほとんど考えることもしなかった。
わたしたち、友達よね?
わたしはルゥのことが大好き。ルゥも、わたしのことを好きでいてくれる?
そんなこと、今更、口が裂けても言えるはずがなかった。
だからわたしは、ルゥがわたしと対等な立場にないことを――敗戦国の王族であることを、なるべく思い出させないようにした。そんな過去など何もなかったかのように振る舞った。
そうすれば、昔のことなどルゥは忘れてくれるだろうと、なんのしがらみもなくわたしと対等な関係になれるだろうと、子供の浅知恵で考えていた。
ルゥのいる場所では、ステラリオンという名は話題に出さなかった。なにかの拍子に兄や侍女たちがうっかり口に出してしまった時には、わざと話題を変えるか、「その話はしたくない」とわがままを言った。
わたしは、ルゥが昔のことを思い出すのが怖かった。
彼女が故郷を懐かしんで、ステラリオンの地に戻りたいと言い出すのが、恐ろしかった。
昔、ルゥは、わたしとずっと一緒にいたいと言ってくれたし、あの言葉が嘘だったとは思わないけれど、それでも。
わたしがルゥにとっては仇の娘であることはどうしようもない事実で、そのことは胸に刺さった棘のように、いつまでも鈍い、無視できない痛みをもたらしていた。
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