第5話 理不尽

 

 ――未成年だから自分でお金の管理ができない?? なんじゃそりゃ?? 確かに五百万は大金だよ!? でもだからって一千ダルフ?? 住むとこも無いのに一万円生活しろっていうの??


「ちょっと待って! じゃあ月一万ダルフってのはどうなるの!?」


 森中に木霊するのも構わずに叫んでいた。知識はあるものの、勝手もわからない見ず知らずの土地で、お金だけでも余裕があると思っていたからあまり深く考えていなかった。正直、スキルや支給品とやらを当てにしていたし、チートで楽勝と舐めていたところもある。あの人達と離れられてラッキーとさえ思っていたのに。そのお金が自由にならないなんて。


『月々支払われる一万ダルフに関しては、セトア・コオ名義の口座にプールされます。出金の際には担当官、イコナ・ハインコーフの承認が必要です。なお、現地での所得に関してはこの限りではありません。プールされた金銭は成人後または任務成功時に全額インベントリ・リングへ送金されます』


――つまり、あの慇懃無礼な顔だけ宇宙人にお願いしないといけないってこと? 却下されるかも知れないのよね? 金が欲しけりゃ更に働けって?


「成人ていつ? どうすれば任務成功になるの?」


 大きく深呼吸してなんとか怒りを抑え、震える声で聞いてみる。嫌な予感しかしないけれど。


『リンゼルハイト連合国において定められた二十才を成人とします。また任務については、惑星オルドの未解明データベース補完をもって成功とみなされます』


――インストールされている知識は小型探査機による事前調査で得た最低限の情報を元に作られてるらしいんだけど、それで調べられなかった事を調査して百科事典を完成させろってこと? それって事実上不可能じゃないの? 地球でも九割は解明されてないっていう話を聞いたことあるんですけど? お金も渡さず、その上で生死に責任持ちませんて? 成人前に死ねばほぼタダ働きよね? 成功報酬渡す気ゼロでしょコレ!?


「ふっっっっざけるな!!!!」


 どうりでオルドに関することばかりで、任務の事は大まかにしか刷り込まれてない筈だ。額面通り受け取って、気づかなければ放置するつもりだったんだろう。もしかしたら、それが目当てで子供を選んでいるのかも知れない。サルに払う金はないということか? それが連合の総意なのかは分からないけれど、少なくともイコナはそういう考えなんだろう。


「ふざけるな……」


 泣きたくない。でも涙は勝手に流れて止まらない。自分で言うのもなんだが、短い人生でそれなりの苦痛を味わって来たつもりだった。不条理に唇を噛みながら、あいつらを見返してやるんだと頑張って来た。それなのに。


 わたしはこんな何処とも知れない場所で、生きていけるのだろうか。それとも死ぬの? あのまま名前だけの家族に従っていた方が良かった? 嫌な考えが取り留めなく溢れてくる。鬱蒼と茂る木々は風に揺れるばかりで、何も答えてはくれない。


 一転。


 涙で歪む視界を警告の文字が埋めつくす。


――いやいやいや!! 警告って言われてもお前のせいで視界が狭いわ!!

 

 一人ツッコミを入れながらも慌てて周囲を見渡せば、矢印が誘導する先で一対の光と目があった。


 そこには巨大な猫が一匹。

 爛々と輝く瞳が弧を描いていた。

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