第11話 許嫁と前日の夕食
「白咲さん、明日誕生日なんだ」
その日の放課後、家に帰ったら、俺は夕食の時に結愛にそう声を掛けた。
「あー、確かにそんな日ですね」
やはり明日は誕生日という自覚はあるようで、それを表に出さずにこれまでと変わらずに平然とした顔をしていた。
学校であれだけ騒がれてるくらいだから自覚しない方が難しいが、だからといってその日を特別待ち望んでいるようには見えなかった。
「誕生日とか、わざわざ人に教えた記憶ないんですけどね」
「そうなのか。にしては随分と広まってたな」
「多分、前にアンケートか何かに書いた時に見られたのかと」
表情一つ崩すことなく俺と話す結愛は、どっと暗い顔色をしていた。
「私、誕生日とか祝わないので平日と大差ないんですけどね」
結愛はそう言いながらも、平然とした顔から無理して笑みを作った。そして同時に思った。祝わないのではなく、祝われなかったのかもしれないと。
でなければこんなに寂しそうな顔をするはずがない。
「…………数名の方は、プレゼントも渡してくれたりするんです」
結愛は珍しく箸を止めて、話すことに専念する。
「でもそれはあくまで私と近づくための方法に過ぎないのかなって。本当に想って渡してくれる人は、1人もいないんです」
「そんなこと分からないだろ」
「前に一度も話したない人からも貰ったことあるので、そういうことですよ……」
下を向いて、前髪で表情を隠しながらも悲しいことを言う。結愛の言った通り、お近づきになろうとして誕生日を祝う人がほとんどだろう。
だってそれくらいしか関わる接点を作れないし、直接プレゼントなんて渡す機会なんてないのだ。
だが結愛からすれば、それらはほとんどが下心の込められたものにしか見えないのだろう。話したこともない人から渡されるプレゼントなんて、か弱い女の子からすれば少々恐怖すら感じるかもしれない。
「誕生日なんて、別にいらないんですけどね……」
ついにはそう口に溢してしまうくらいだ。結愛に誕生日の日に良い思い出なんてなかったのだろう。もしあっとしても、今は自ら避けているので、好んでいるようには見えなかった。
そう思うと、これまでにないくらい寂寞とした空気感が生まれた。
(ならせめて俺くらいは……)
その空気感に左右されたのか、俺の中ではそう思い立っていた。俺は学校の人達とは違い、お近づきになりたいとかそんなのではない。
ただ、家族を失った俺から見て、誕生日を望まない結愛の姿が脳裏に焼き付いて離れなかった。
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