第2話
チェッ、今月の当番はおれだってさ。」
例の物体の流れて来た方向に、水面すれすれに飛ぶミツバチはちょっとやけぎみです。しばらく飛んで行くと、また同じ様な物体が流れて来ましたが、今度のは何だか果物や木の実が腐ったような、変な物がべっとりとくっついていて相当に汚れています。
どんどん進んで行くと、湖と川がぶつかる場所にある水門までやって来ました。ここには水門を見張る番小屋があって、熊の親子が住んでいました。大切な役目を持つ水門を、いつもしっかり守ってくれている彼らは、森のみんなから大きな信頼と期待を一身に受けて働いています。何と言っても森のあのすばらしい湖に、汚染された川の水が入り込まないようにしなければならないのですから重大な仕事なのです。
その彼らはミツバチに向かってこう話しました。見回りをしていると、汚れた水や物がたくさん流れて来るので、キャンプ場の近くまで様子を見に行ったら、人間に見つかって大騒ぎになりました。鉄砲を持った人が撃ってきたので逃げるのが精いっぱい。それでこの物体の正体も、汚れた水の原因も不明なのだそうです。
ミツバチはすぐさま森に帰って、この事をみんなに報告しました。
「何と言うことだ。まったくけしからん。我らの大切な見張り番に銃を向けるとは」
「本当ですわ、なんと野蛮なことでしょう。」
みんなの怒りはなかなか収まりません。
「しかし、怒ってばかりじゃぁ解決にはならん、原因を突きとめねば・・」
「それじゃぁキャンプ場に偵察隊を送ろう。誰がいいじゃろう。」
村長さんの言葉にみんなだまってしまいました。銃を持っている人間のいる所になんか、進んで行こうなんて人はいませんよねえ。いつものおしゃべりな森も静かになりました。
「そうだ、猫の奥様、あなたなら人間に怪しまれないですみますから・・あなたに・・」
「と、とーんでもございませんわ。わたくしは上品な人間とのお付き合いには慣れていましたけど、そんな野蛮な人とのお付き合いなんて、全くございませんでしたから・・」
「わかった、それじゃぁやっぱりここは又、君にもう一度お願いすることになるが・・」
「えーっ、今帰ったばかりなのに。」
「君たちハチは人間が怖がるほどの強さを持っておる。それに、何しろ我々とは違って見つけられても、まさか鉄砲で撃ってくるなんてことはあるまいからのう。」
そんな理由からミツバチはみんなに見送られて、もと来た道を飛んで行きました。でも先ほどとは違って、ちょっと飛び方に元気が溢れているようですが・・。それは「人間が君を恐れるほど強い」なんて言われた、たった一言のせいなのですから、言葉って意外に大切なものなんですね。
ミツバチはキャンプ場があまりにも賑やかでびっくりしました。静かな森では働いて疲れるということはありませんが、ここでは人や音楽が騒々しかったり、河原で料理する煙のすごさで、飛ぶ為のエネルギーがたくさん必要な気がしました。
森のみんなからはミツバチは人間より強いと煽てられたけれど、楽しそうな人間達はハチの存在など全く気にもとめていないようです。それどころか、ハエや蚊にスプレーを向けて噴射するのです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます