30. 管理人さんと度胸

30. 管理人さんと度胸




私は今、部屋で霧島さんを待っている。契約についての話だそうだけど……。


私としては本当は北山さんと擬似カップルじゃなくて本当にカップルになりたいんだけど……。北山さんに告白する度胸も勇気も私にはない。


そんなことを考えていると部屋のインターホンが鳴り、霧島さんがやってくる。


「こんにちは管理人さん。少し遅くなってしまって申し訳ございません。」


「あっいえ。大丈夫です。中へどうぞ」


私が部屋に招き入れると霧島さんはおずおずとした様子で入ってくる。白のブラウスに紺色のスーツ姿で霧島さんの綺麗な金髪が映える色合いである。


「今お茶を出しますね」


「ありがとうございます。」


「それで契約の話しっていうのは?」


「擬似カップルの件です。管理人さんのおかげで晴斗の作品は良くなって来ています。」


北山さんの作品が?それなら嬉しいな。私のおかげってことはないと思うけど、北山さんが褒められると私も嬉しい気持ちになる。


「稟議を通した結果、このくらいの額でとなっているのですが……目を通して、大丈夫ならサインをしてください」


霧島さんは書類を机の上に出す。私はそれよりも霧島さんに伝えたいことがあった。


「あの……私……その……お金は要りません。」


「え?」


言ってしまった。でも、もしお金を受けとる契約をしてしまえば、北山さんとの擬似カップルを認めてしまうことになる。そんなのは嫌だ。私は本当に北山さんが好き、大好きなんだもん!


「管理人さん……じゃなくて、真白さんだったよね?ここからは仕事じゃなくて、私と真白さんとして話したいんだけどさ。真白さんは晴斗の家に泊まったんでしょ?」


「えぇ!?なんでそれを!?」


「今日読んだ晴斗の原稿の中に書いてあったわよ。カレーを食べたことや水族館デートのことも」


そんなことまで北山さんは小説に書いているんだ……そう思うと恥ずかしい。でも私とのことを書いてくれていると思うとすごく幸せな気分にもなる。


「晴斗さ、本当に度胸がないわよね?こんな可愛い子が泊まるのに何もしないなんて?」


「北山さんはすごく誠実な方だと思います。いつも私の為を想って行動してくれる。そういう所に私は……」


「あー。そういうことね。契約のことは一旦気にしなくていいわ。」


霧島さんは呆れたような顔をして契約書を封筒に戻し鞄にしまう。そして帰る前に私の方を向き、優しく微笑みながら話しかけてくる。


「本当。晴斗にはもったいないわね。管理人さん。これからもよろしくお願いするわ。」


そう私に告げると霧島さんは帰っていく。残された部屋で私は一人呟く。


「私とのことを本当に小説に……やっぱり北山さんのことが好き。今はただ北山さんのことを考えたい。もっともっともっと一緒に……これからも……。」

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