9. 小説家さんと擬似カップル
9. 小説家さんと擬似カップル
オレは今、真白さんの誤解をどう解くか考えているところだ。悠理はオレの小説の設定と最初の冒頭を読んでいるが、それどころじゃない。
「……なるほど。ねぇ晴斗、正直に感想を言うわよ?」
「ああ。頼む」
「設定は悪くないわ、むしろ好感持てるくらい。でもね……リアリティーに欠けるわ。これじゃあ読者も納得しないわよ?恋愛経験の乏しい人が妄想だけで書いているようにしか見えない」
悠理は昔から的確な答えをくれる。それならばきっとそうなんだろう。しかし、ここで諦めるわけにはいかないのだ。この小説を書籍化するという夢のためにも、この程度のことでくじけるわけにはいかない。
「あとさ、晴斗?この小説のヒロインってさっきの管理人さんでしょ?」
「……そうだよ。お前笑うかもしれないけどさ、この歳で恥ずかしいかもしれないけど。真白さんに一目惚れしたんだ。だから恋愛物を書きたくなったんだ」
「あなた自分の境遇わかってるの?もう次はないわ。あなたを庇えるのもこの小説が最後だと思う。それでもこの題材でいくの?」
「ああ。もう決めたんだ。必ずこの小説を完成させて真白さんに喜んでもらいたい。」
すると、悠理はやれやれといった表情になり、こう言った。
「その気持ちだけは本物みたいね。わかったわ。私も協力するから頑張ってみなさい。」
「ありがとう悠理」
「そうと決まれば行くわよ」
「え?」
オレは悠理に連れられて真白さんの部屋に行く。そして気のせいじゃなければ目を赤くした真白さんが出てきた。
「先程は失礼しました。私はこういう者です。」
「えっ編集さんですか?北山さんの?」
「はい。それであなたにお願いがあるんですが……」
「私にですか?」
そういうと悠理は鞄の中から原稿を取り出し、真白さんに手渡した。
「それは晴斗が書こうとしている小説なんです。晴斗は正直、その小説がヒットしなければ、小説家をやめることになります。」
「え?そんな……やめるって……」
「真白さん。オレはデビュー以来ずっと結果が出てない。だから最後のチャンスなんです」
そうだ。このままでは確実にオレの夢は叶わない。それどころか今まで積み上げてきたものが崩れてしまう。それだけは絶対に嫌だ!
「そこで。管理人さん、晴斗とお付き合いしていただけませんか?もちろん擬似カップルですよ?晴斗の小説が成功したら報酬もお支払いします。」
「おい悠理!?お前何言ってんだ!?真白さんに失礼だし迷惑だろ!?」
「あんたは黙ってて。管理人さん、この小説のヒロインはあなたに似てます。そして作者の晴斗はロクな恋愛経験がない。このまま作品が書けるとも思えない」
ひどい言われようだ……。だが事実である。オレは今まで彼女がいない。でも真白さんに一目惚れし、恋をしているのは事実だ。
「分かりました。私でお役に立てるのなら、北山さんとお付き合いします。」
「真白さん……」
「なら契約成立ね。晴斗、5000文字を来週末までに仕上げなさい。いいわね?」
こうしてオレと真白さんは擬似カップルになった。そして恋愛小説の1ページ目が開かれたのだった。
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