10. 管理人さんと擬似カップル

10. 管理人さんと擬似カップル




 私は今、自分の部屋の布団に丸まって泣いている。


「北山さんは私より大人だもん……彼女がいてもおかしくないよぉ。……期待してた私がバカだよね……」


 でも本当に一目惚れしたんだもん。この気持ちをすぐに切り替えることなんて出来ないもん。


 しばらく泣き続けていると、突然誰かが来る。出たくないけど出ないといけないよね。私が扉を開けるとそこには北山さんとさっきの女性がいた。


「先程は失礼しました。私はこういう者です。」


 七色出版社?編集担当 霧島悠理?あれ?もしかして?


「えっ編集さんですか?北山さんの?」


「はい。それであなたにお願いがあるんですが……」


「私にですか?」


 そういうと霧島さんは鞄の中から原稿を取り出し、私に手渡してくる。これは北山さんの原稿かな?


「それは晴斗が書こうとしている小説なんです。晴斗は正直、その小説がヒットしなければ、小説家をやめることになります。」


「え?そんな……やめるって……」


「真白さん。オレはデビュー以来ずっと結果が出てない。だから最後のチャンスなんです」


 そんな……。北山さんが小説家をやめる?それだけは絶対に嫌。私にできることがあるなら何でもしたい!


「そこで。管理人さん、晴斗とお付き合いしていただけませんか?もちろん擬似カップルですよ?晴斗の小説が成功したら報酬もお支払いします。」


 えっ……


「おい悠理!?お前何言ってんだ!?真白さんに失礼だし迷惑だろ!?」


 今……何て?


「あんたは黙ってて。管理人さん、この小説のヒロインはあなたに似てます。そして作者の晴斗はロクな恋愛経験がない。このまま作品が書けるとも思えない」


 私が……北山さんとお付き合い!?落ち着いて私。擬似カップルだから。でも、それでも北山さんの為になるのなら私は……


「分かりました。私でお役に立てるのなら、北山さんとお付き合いします。」


「真白さん……」


「なら契約成立ね。晴斗、5000文字を来週末までに仕上げなさい。いいわね?」


 こうして私と北山さんは擬似カップルになった。そして恋愛小説の1ページ目が開かれていくのでした。

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