死の山

 何もない山荘を出て、散策を開始し直す。

 いくら待ってども、日が差す気配がないのだ。

 山から見下ろすと、かなり広い森がある。

 さらに、山の地面では動かない白骨を見かけるようになった。

 白骨が動くという前提にはおかしくなるが、事実動いていたものは居たので警戒はおこたらない。

 白骨は人ではなく獣の死骸しがいの跡らしいが、組み直されて動き出したらたまったものではないので、あまり近付かずに歩を進めることにした。

 後ろで『カラカラ』、と。聞き慣れたがいつもの通り、嫌な音だ。

 振り返ると、かすみがかってはいるが、遠巻きに立って歩く骸骨が確認できた。

 こちらへと、笑いながら、全身で笑いながら近づいてくる。

 すぐに足を早めて、距離を置こうとする。

 あっ、と言うが速いか、霞で見えずらかった崩れた足場から滑るように転落していく。滑落かつらくだ。

 大きな音を立てて、下方へと落ちていく。そこまで長い距離を落ちたわけではないし、痛みも驚くほどに何もない。布の服が少し汚れた程度だった。

 視界が晴れていくと、目の前には巨大な口がある。

 今度こそ、息を呑んだ。

 それは竜だった。ドラゴン。その死骸だ。

 己の十倍はある、トカゲのような体躯たいく。所々に穴の空いた翼だったものが生えている。

 生きていれば、間違いなく捕食されていたことだろう。

 よく見かける、完全な白骨ではない。死んだばかりの竜らしい。

 驚くべきことは、さらに続く。

 竜の斜め上を黒衣の者――魔術師のようである――が浮遊しており、なにやら紫色の帯の光明こうみょうが竜と魔術師を繋げていた。

 何かを送り込んでいるのか、回収しているのか。それは分からない。

 そして、竜の死骸がどんどん白骨化していき、代わりに地面に汚汁のような、しかし真っ赤な血液(だろうとは思う)が広がっていく。

 尻もちを付いた状態で、服を血で濡らしたくはなかったので、すぐに立ち上がる。

 魔術師は何も言わずに飛行して、その場を去っていく。

 そして、動き出す。

 カラカラ。

 カラカラカラ。

 全身がきしむ音にすくみ上がる。

 竜のあぎとが開かれる。

 その白骨化した身体で、何を欲するのか。

 気づいた頃には、飲み込まれていた。

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