血塗られた、洞窟にて

 布の靴が濡れる。足には染み込まないが、よく滑る。

 鉄のびたような、独特な匂い。油ではない。

 なにかの血ではないか、そう気づいた頭が嫌になった。

 洞窟どうくつは真っ暗で、ほぼ無音。少々の風の音。

 なにも、移動し続ける必要はないのではないか。

(行き止まりかもしれない)

 しかし、洞窟は次第に広くなり、うっすらと光が差し込んでいた。

(外……?)

 天井がない場所へと、存在は突き抜けるように出る。

 真っ赤な地面を、月光が照らしている。死体がないのにも関わらず、洞窟は血まみれだった。

 布の靴にも、狭い道でこすれた衣服にも血が付いていて、大変気持ちが悪かった。

『カラカラ』が、また聞こえてくる。

 その声が一切出なかったのは、臆病さを隠すためだったのか。

 呼吸が止まるほどの恐怖だったからか。 

 洞窟から見上げると、窪地くぼちになったその場を見下ろす形で、骸骨たちが何十も立ち、構えていた。

 登ればこの洞窟からは離れられるが、無論、骸骨に何をされるかはわかったものではない。

 そこは洞窟から抜けて開けた、峡谷きょうこくになっているようだった。

 上り坂になっている正面の道を歩いていく。

 進み続ければ、骸骨と合流することになりそうだが、進む以外に道はない。

 かすみがかる山へ、足を進める。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る