自然の墓場、森にて

 細く、小さな存在が、森に入った。

 空腹も疲労も感じなかったし、それを不思議だと思うこともなかった。

 森を歩き出してすぐに、カラカラと音が鳴る。こんな森でそんな音が聞こえるのははなはだ不気味だった。

 人工的というほどではないかもしれない。だが、近くの木々の枝葉が擦れあう音とは、明らかに違うのだ。

 逃げるのが遅れて、どんどん音は重なっていく。

 複数あるのだ。居ると言うべきか。

 遠くの木陰から、確かに見えた。

 白い、骨である。

 骸骨がいこつうごめいているのだ。

(なんなんだ……)

 右に方向を変えると、進んだ先に骸骨が見える。人の姿をした、骸骨が立って動いている。

 大きく左に変えて歩を進めようとすると、やはりその正面に骸骨。

(……わけがわからない)

 しかし、先ほどの墓場に戻る気にはならなかった。

 囲まれていくなかで、小さな洞窟どうくつを見つけた。

 骸骨はまだ遠い。

 意を決して、その洞窟に入り込む。

 最後に振り返り、見た骸骨たちは、全身で笑っているように見えた。

(誘い込まれたのかもしれない)

 そう気付いたのは、すでに洞窟に入ってからの話だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る