第十二話
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週末もそれぞれ神楽とビーチバレーの練習に励む渚と京くんを見ていると、置いていかれたような気持ちになる。「お神楽の練習見にいこうかな」と言ったら嫌な顔をされてしまったので、泣く泣く休日をひとりで読書をすることにした。
京くんに借りたあやかしの本を丁寧にめくると、漢字とカタカナで書かれた文章が出てくる。
「『――狸ハ人ニ化ケル』うん知ってる。『蛇ハ唯一共喰イヲスル』……と、共喰い?」
あやかしの特徴を捉えてはいるようだが思っていたのと違うし読むのが難しい。もっと妖怪大辞典のようなものを想像していたのに。京くんがギブアップしたのも納得だ。
すっかりやる気をなくしてしまった。畳に寝転がりながらぱらぱら流し見していると、ページとページの間からひらりと一枚紙が落ちてきてどきっとする。
「わっ破れて――は、ないか。なんだろこれ」
見るとそれは二つ折りにされた古びたわら半紙だった。
なにも考えずに中を見る。かなり古いが島の地図のようだ。海で囲まれた小島の中央には山がある。そして、その山には鳥居のマークが描かれていた。
「これって【神社】のマーク、だよね。確か祭事で神楽を奉納するって京くんが言ってた」
山の形を指でなぞっていると、もうひとつの地図記号にたどり着く。三つの点が三角形に並んでいるが、なんの記号か分からない。わたしは急いで学校で使っている地図帳を取り出して調べてみた。
「えーと、あった。これは【遺跡】の地図記号。この島、遺跡なんてあったんだ……!」
一度気になってしまうと衝動が止まらない。おまけにヒマを持て余している。わたしはお気に入りのパーカーを羽織って、古びた地図を片手に家を飛び出した。
せっかくの休みだし、山登りも悪くない。京くんと歩いた山道をゆっくりひとりで進む。今回は手を引いてくれる人はいない。地図を頼りになんとなくの方向を目指してただ足を動かす。山道と言ってもピクニックが楽しめる程度の道で、低学年の遠足でもこの山を登るらしい。いくら足の遅いわたしだって体力さえ続けばマークの場所まで行けるはずだ。
まるで秘密の探検をしているよう。
緩やかな斜面を十五分くらい歩くと、京くんの家へと続く道に出た。しかし方角的にはその道とは真逆の、草木に埋もれそうになっているわき道を行くのが正しそうだ。
適当な木の枝を振りながら草をよける。よく見ると踏み固められた地面には苔むした石が道しるべのように二列並べられていて、古い道であることを感じさせる。
石の道の間を通ってしばらくすると、突然ぱっと視界が開けた。
そのまぶしさに目を細めてから、目の前の光景に思わず息をのんだ。
「わあ……!?」
木々の間に丸くぽっかりと広がる空間。こもれびがスポットライトのようにきらめくその場所に、大中小さまざまな石が積み重ねられた塚があった。
「これってお墓、なのかな……」
テレビで見たことがある古墳の小さいバージョンにも見える。近づいてはいけないような気がして恐る恐る眺めていると、背後からじゃりっと地を踏む音が響いた。
「これは
「あ……」
和装の青年――舳さんがわたしの横に立ち、目の前の塚を見て言った。
突然の京くんの叔父さんの登場にわけもなく焦ってしまう。
「あ、あのこんにちは!」
「こんにちは。古御門さんはこんなところでなにを?」
「ひまだったので散歩をしていたらたまたまここに!」
別に怒られているわけでもないのに、ここを探していたことを知られたらいけないと感じて偶然を装ってしまった。舳さんはゆるりと首をかしげる。
「そう……。この前といい君は不思議な場所に現れるね」
この前とは蔵で出会った時のこと。そして今は遺跡の前。舳さんから見れば確かにわたしが不思議な場所に出没している。
「あの……鼬塚っていうのは?」
いたちと言われると気になってしまう。こんなお墓のようなものの名前だったらなおさらだ。舳さんは「少し難しい話だけど、」と前置きして説明を始めた。
「人に
「えっと、山岳、信仰? ですか?」
「うん。まあ普通だったらその対象は火山や霊山なんだけど、この島だとあやかしが出る山を恐れてのことだろう。そして島の人間が恐れたものがもうひとつある」
「それが『鼬』というあやかし」
舳さんの鋭い視線がわたしを射抜いた。
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