第7話 『後輩の女の子は優しい』
やりすぎた、かな。
御代を傷つけずに関係を終わらせられたと思っていたのに、こんな事になって、後悔と罪悪感に心が埋め尽くされていた。俺がこんな思いをするのはおかしい、そんなこと分かっている筈なんだ。
いつだってわがままを言ってきて俺を苦しめてきたのは御代、こちらの作戦とはいえなんの躊躇いもなく和哉と浮気をしたのも御代なんだ。
───分かってるのに......なんで......。
御代の泣き顔が頭から離れてくれない。手を差し伸べなかったのを、近くに居てやらなかったのを後悔している。
関わりたくないなら走って帰ればいいのに、寧ろいつもよりも歩幅を短く歩いている。後ろを気にしながら歩いてる。
「なにしてるんですか?先輩」
「え?」
突然声を掛けられて驚く。
「泥棒みたいな歩き方してますけど......下着でも盗みましたか?」
「そんなわけ......ないだろ」
いつもなら口うるさくツッコむところだが、今はそんな気分になれない。それを不審に思ったのか、目の前にいる文芸部の後輩の
「熱は......ないみたいですね。じゃあ、やっぱり───」
「ちょっと、久しぶりの部活で疲れただけだから」
心配してくれるのは嬉しいが、今誰かと話している余裕はない。誰かに優しさを向けられたら、御代に対する罪悪感が増してしまう気がするから。
俺が牧村の横を抜けようとしたとき、腕を掴まれた。
「──先輩の今の状態は、あの手紙が原因ですよね?」
「......ちょっ?!なんでそのことを?!」
「久しぶりに先輩が部活に来たので話そうとしたら、ずっと雅先輩と東雲先輩と話してたんで......タイミングを見計らっていたんです」
牧村が言うには、俺に話しかけようと後を追っていた牧村は俺が下駄箱で何かを発見したのを見ていた。俺が周りを確認したときに見つからなかったのは下駄箱の死角に隠れそうだ。そして、手紙を読み始めたところで再び俺のことを観察し、急に走り出した俺を不審に思い、ここで待っていたらしい。
「走っている後ろを追いかけるのはバレるリスク上がりますからね。目的地も分からないですし、闇雲に探すよりはここで待ってた方が確実だと思いまして」
「その判断をしてくれて嬉しいよ」
屋上で同学年の女の子を泣かせているところなんて見られたくない。会話を聞いていたとしても、俺を擁護してくれるとは限らない。だから、牧村の判断は本当に助かった。
でも目星がついていたのならなんであんな回りくどいことをしたんだ?下着泥棒を疑ったり、熱を測る必要なんて無いはずだけど。まぁ、これは考えても仕方ないことか。
「詳しくは教えてもらえませんか?」
「......そうだな。ちょうど誰かに話したかったんだ」
空が暗くなり始めたので、牧村を家まで送りながら、御代とのことを話した。あんなことがあった後だから誰かと一緒にいるのは落ち着くし、話を聞いてくれると心が落ち着いていくのが分かる。
「......」
俺の話を聞き終えた牧村は驚いているのか、無言でいた。
「ま、牧村?」
「......あ、すみません。先輩に彼女がいたことに驚いてしまって」
「確かに周りには言ってなかったけど、驚くところそこなんだ」
「他のことはあまり覚えてません」
「結構話したのに?!」
冗談です、と牧村は、真顔で言うと急に身体の向きを変えた。
「私の家ここですので」
「あ、そうなんだ。意外と俺ん家から近いんだな」
「毎朝待ち伏せとかしないでくださいね」
「なんで俺ストーカーみたいなイメージもたれてるの?!」
今度は冗談とは言わずに「また明日」とだけ言い残し、牧村は家の中へと姿を消した。
もしかしたら、俺の話を聞いて何も言わなかったのは彼女なりの優しさかもしれない。
「いつも通り当たりは強かったけど......少しだけ元気出たわ。ありがと」
牧村に聞こえないことを確信した上で感謝を述べ、俺も自宅へと足を進めた。
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