第8話 『屋上で今度は......あーん』
翌日、朝。
憂鬱な思いで教室に入ると、友達と楽し気に話す
席に座った俺の下へ
「おはよう」
「おはよう。ところで昨日、御代と何かあったか?」
「なんだよ急に」
「教室に入って早々不安そうな顔で御代の事を見てたからな。そりゃあ気にもなる」
和哉に隠し事は出来ないらしい。
「ここで話す事じゃ無いな。後でメッセージで送るわ」
「分かった」
担任が教室に入って来てホームルームを始めようとする。俺はなんとなくもう1度御代に視線を向けると、彼女と視線が重なった。
しかしすぐに視線が逸らされたのできっと偶然だったんだろう。
*
昼休み、特に誰かと昼食を摂る週間の無い俺は机の上に弁当箱を置き、包みを解いていこうという時に声を掛けられた。その方向に視線を向けると、牧村が立っていた。
牧村が俺の教室に来るのは初めてのことだ、ましてや弁当箱を持ってくるなんて。俺が疑問を浮かべると、それを断ち切るように牧村が口を開いた。
「先輩、一緒にお昼ご飯食べませんか?」
「え?いや、いいんだけど......どうしたんだ突然」
「まぁ、なんとなく」
そう言いながら牧村は辺りを見回し始めた。和哉でも探してるのか?
「和哉ならそこに──」
「あ、いいえ。ちょっと視線を感じただけなので。.......ここだと、人の目が凄いので屋上に行きましょうか」
「お、おう」
正直、できれば屋上にはしばらく行きたくないんだが───教室に居辛いのも確かだ。俺も弁当箱と貴重品を持って牧村と共に屋上へ向かおうとした時に、和哉に声を掛けられた。
「二人でご飯?俺も付いて行っても────」
「ダメです」
「なんか、牧村って俺に当たり強くない?!」
「大丈夫。俺にもあたり強いから」
牧村が和哉の参加を拒否してそのまま教室を出て行ったので、俺が軽くフォローをして彼女の後を追う。俺と和哉以外には普通に接しているんだけどな......あ、でもなぜか雅先輩ともあんま仲良くないような感じがする。仲良くないと言っても、牧村の一方的な嫌悪感が漂うだけで、表向きは普通に接している。
「それで───」
牧村がやっと追いついた俺に階段を上りながら声をかけて来た。
「───先輩の元カノはどなたです?」
その発言で、牧村が教室の中を見渡していた理由が判明した。探していたんだ、御代のことを。
「......窓際に居た、ツインテの女子だけど」
「あー、あの必死にスマホ弄ってた人ですか」
俺が多少の恥じらいを感じながら教えると、彼女は自分の記憶の中の女子生徒を導き出すことに成功していた。
まぁ、御代のことを導き出すのは難しいことではない。うちのクラスにツインテの女子は彼女しかいないから、記憶に残りやすいのだ。それにしても、珍しいな。御代が必死にスマホを弄るなんて。
「......先輩はああいう人が好きなんですね」
「え、いや、まぁそうだけど。別に、見た目で好きになったわけじゃないから!」
御代とは付き合う前から良く話してて、その時間が楽しくて......いつの間にか惚れてたんだ。そんなこと恥ずかしいから牧村には言わないけど。
「そうですか。......とりあえず今ので私の今日の第一目標は達成しました」
「第一ってことは他にも何かあるのか?」
「はぁ......私たちは今、何をしに屋上に向かっているんですか」
「え?俺と屋上で弁当食べるのが第二なの?」
「はい」
いつもと変わらない表情で頷きながら、いつの間にか辿り着いていた屋上の扉を開ける。
屋上には他の生徒はいなかった。うちの学校の屋上は人気があまりない。夏は暑く冬は寒い、そんな屋上で好んで昼食を摂る生徒が少ないのだ。大体、みんな学食かどこかの教室で済ましてしまう。
「本当は昨日のこともあるでしょうから、先輩を屋上に連れてくるのは気が引けたのですが」
「ありがとう、俺は大丈夫だから」
この学校には昼食を摂れる空き教室がないし、部室も部活時間以外使用禁止だから、屋上を選んだのは仕方のないことだ。
「では、そんなに時間もありませんし」
近場のベンチに腰を下ろして互いに弁当を開ける。手を合わせて「いただきます」の合図で、俺は弁当のおかずに箸を伸ばす。それを口に運んで咀嚼していると、牧村に箸を奪われた。
「な、なにを──」
「あーん」
牧村は自分の弁当のおかずを俺の箸でつまみ俺の口の前に運んできた。食べろということなのだろうが、なぜこんな恥ずかしい方法を......。
「あ、あの牧村?」
「......食べたくないですか?」
いつもとは違う悲し気な表情を見せられ、俺の脳は口を開くように指示してしまった。その開いた口を見て、嬉しそうな表情になった牧村がおかずを入れてくる。
「ん、おいしい!」
「ふふっ、良かったです」
「もしかして、これ牧村が?」
「はい、こう見えて料理は得意なので」
牧村の意外な特技に驚かせながら、彼女の今日の目標について思い出す。もしかしたら、彼女の目標の第二あるいは第三は俺に自分のおかずを食べてもらうことだったのかもしれない。その意図は分からないが、彼女の珍しく嬉しそうな表情を見るとそんな気がしたのだ。
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