第6話 『屋上での別れ』
下駄箱に入っている手紙を見て最初に頭に浮かんだのは『ラブレター』という言葉だった。よく漫画やアニメで見るかわいらしい封筒には入っていないが、下駄箱に入っている手紙なんてラブレター以外思いつかない。
俺は周囲を確認しながら、ゆっくりと手紙を取り出し内容を確認する。
『伝えたいことがあるので、屋上で待ってます』
はい、やっぱりラブレター!
女の子っぽい字と内容がラブレターであることを確信させる。
呼び出された場所が分れば後は行くしかない。部活動の時間は終わっているから、早く行かないと教師に見つかったらめんどくさいことになる。
俺は手紙をポケットにしまうと、屋上へと繋がる階段を駆け上がっていった。
*
結論から言うと、屋上なんて来なければよかった。数分前の脳内花畑な自分を殴ってやりたい。
まぁ、告白されても雅先輩以外からのものなら断る気だったし、知らない誰かを傷つけずに済んだのは良いことだが......はぁ。
「あんな手紙でのこのこ来るなんて、警戒心無さすぎじゃない?」
「そう思うんだったら、ここで律儀に待ってる必要はなかったんじゃないか?」
「は?何その生意気な口の利き方」
見るからに不機嫌な表情を浮かべながら長い黒髪を風で揺らしている御代に対して、今までのように怯むのではなく強気な姿勢を示す。
「もう俺はお前の彼氏じゃないんだ。だからお前に気を遣う必要がなくなっただけだ」
「ふーん。そういう割には、ちらちら私のこと見てきて……まだ私のこと好きなんじゃないの?」
「安心しろそれだけは絶対にない」
一瞬───見間違いとも思える程に一瞬だが、御代が寂しげな表情を浮かべた。
「それなら良かった、また告白されても面倒だからね。あ、それで本題なんだけど、彼氏と別れちゃってさ、パシリが居なくなっちゃったの。だから、またよろしくね」
「は?」
「好意がないならわざわざ彼女を演じなくて良いし、私の本性知ってる人間をあんまり増やしたくないからね。適任なの。彼氏もどきじゃなくて、パシリとしてしっかり働いてね」
俺はどうしてこんなやつを好きになったんだろうな。こんな人の気持ちを考えることが出来ずに、あんな振り方をした相手に平気でパシリになることを頼んでくる数分前の俺以上に脳内お花畑なやつを……なんで。
「馴れ馴れしくお願いしてくるのやめてもらえませんか?」
「……え?」
「俺とあなたはもう他人です。ただのクラスメイト。それだけです。主従関係でもなければ友達でも、ましてや恋人でもない。だからあなたのパシリになる気なんてないんです」
敬語は目上の人に使うのが一般的だが、距離を置きたい相手に使うのにも適している。もちろん親しい間柄でも敬語で話す人たちもいるが……俺と御代は違う。
「け、敬語とかやめてよ。仮にも元カノじゃん」
「元カノだからです。今の俺とはなんの関係もない。あなたが俺にしてきたことを考えれば友達に戻れるわけもない。だから──」
続きの言葉が止まる。御代の表情が今度は一瞬ではなく、疑いようもなく、変化していたから。今にも泣きそうになっていたから。
元カレから距離を置かれるような言動をされたからって、しかもパシリだと思っている相手からそんな事を言われてからって普通泣くだろうか。御代の方こそ、俺に未練が無いと有り得ない状況だ。
だからこれは、罠。
おかげで、俺は止まっていた言葉を吐き出す事が出来る。
「──もう、関わらないでくれ」
俺はそれだけ言うと、御代を残して屋上を後にした。
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