第1話 『和哉感謝祭』
「2人の解放記念日を祝して────
「乾杯!」
部屋中にコップ同士がぶつかり合う音と、コップ内の氷が暴れる音が鳴り響いた。それだけ、解放された事が互いに嬉しかったのだ。
「本当に────これで終わったんだよな?」
「ああ、俺のおかげでな」
和哉が冗談のつもりでそう言うが、オレはそれを冗談だと受け取る事は出来なかった。それだけ、和哉の活躍は大きいから。
「彼氏だからってパシリにされる日々が……」
「ストレス発散したいとかで、サンドバックにされる日々も────もう終わったんだな……」
次々と辛い日々が蘇り口にして、共有、共感していると、自然と目に涙が滲み始めた。
和哉はそれに気付いたみたいだけど、茶化す事なく優しい笑みを向けてくれた。
オレを助ける為だけに辛い日々を強いられたのに……それでもこうして一緒に喜んで、一緒に居てくれる。
本当に良い友達を持ったと、心から言える。
「よし、御代との暗い話はお終い!どうしても吐き出したいなら歌って出しちまえ」
「……そうだな!」
今は純粋に友達との時間を楽しみたい。
その意志を互いが持っているから、それからは御代の話題は出さす、久しぶりに訪れた時間を、ただ楽しんだのだった。
*
和哉と別れても尚昂った気持ちはそのままで帰り際に自宅近くのコンビニで、普段買わないケーキを買ってしまう程だった。
「ただいま」
返事はない。
両親は海外出張で、帰ってくるのは来年の秋頃。
だけど、沁みついた習慣は消えず返事が無いと分かっていてもつい口から飛び出してしまう。
「和哉と別れたからって押しかけてくることも無いし、意地でも家に上げなかったのは正解だったな」
御代は、このマンションの住所を知らない。オレが教えていないからだ。
付き合い始めの頃は御代はあんな態度じゃ無く、教室に居る時と変わりが無かったからそのまま行けば家に招く機会もあったかもしれないが、両親の帰らない部屋に付き合ったばかりの女の子を招くのには抵抗があった。
そして結果、その考えは御代の態度と共に代わり、1人暮らしな事を良い事に、好き放題にされる危険性が伴い始め、この安息地を守る事に決めた。
「こっちの許可が無いと入れないって言っても、騒がれたら面倒だからな」
女の子に酷い態度を取れば非難されるのはこちら側。しかも、表向きは咎められる事がない、友達も多い御代相手では分が悪いから、やっぱり知られない事が一番良い事に変わりはない。
そんな事を考えていると思わず驚くタイミングで呼び鈴が部屋中に鳴り響いた。
扉の前ではなく、このマンション内への侵入を求めるもの。
「ま、まさか……」
御代が来てしまったのではないかと焦り応答はせずにカメラで相手を確認する。
「み、
モニターの画面に映し出されていたのは、御代ではなく、部活の先輩である雅先輩だった。
どうして先輩がここに……。
御代とは違って教えないようにしてた訳じゃないけど、聞かれる事も無かったから教えてなかったはずなのに。
「雅、先輩?」
『あ、衛戸くん────こんにちは。ごめんね土曜日に、しかも突然来ちゃって』
「い、いえ。気にしないでください」
『部活に来ないから心配で……良かったら、上がらせてもらえないかな?』
「えっ!?」
『あ、ごっ、ごめんね!迷惑だよね!」
「そんな事ないです!ただ驚いただけで……ど、どうぞ上がってください!」
マンションへの侵入許可を出しモニターの画面が切れると、オレはすぐに部屋中を見渡した。
「1分くらいだよな……」
部屋は汚くないがそれでも和哉が遊びに来るのとは状況が違いすぎる。
脱ぎ捨ての確認と部屋に消臭剤を振りまくぐらいの時間はあるので、出来うる限り悪い印象を与えないよう部屋中を駆け回った。
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