彼女に浮気をされて別れ告げられた~俺が以前から別れを告げずにいられなかったのを彼女は知らない~
蒼
プロローグ 『別れた記念日』
日曜日、混雑する昼時の時間帯を避け10時に
「私を突然呼び出すなんていい度胸ね」
10時5分、集合時間よりも多少だけど遅れてきた彼女は悪びれる様子もなくそれどころか不機嫌そうな表情を浮かべ対面の席に座った。
「大事な話があるんだ」
「メッセージに書いてあったんだから知ってるわよ。そんな前置き要らないから早く話して」
腕時計で一度時計を確認した事を見逃さず、
「なら単刀直入に聞くよ。この写真について説明して欲しい」
スマホに映し出された写真を御代に見せる。そこには、オレの友人である
「1日だけならクラスメイトだしって見逃せれたけど、何度も見掛けたら疑うよ」
「残念だわ、私の彼氏いつの間にか私のストーカーになってたみたいね。あなたに私の予定を共有した覚えは一切無いから、自宅からつけていたんでしょ?」
「それは否定しないけど、オレはただ御代を疑いたく無かったから────御代の潔白を証明する為に……」
彼氏らしい綺麗ごとを言っているが────これは嘘だ。御代の事を疑った事はないし、潔白だと信じた事もない。
御代は浮気をしている────その事実は俺が初めて2人が街中で歩いているのを発見する前から知っていた。
「だから、ストーカーと思われようが罵られようが────オレは御代を信じたかったから……でも────」
「馬鹿でしょ」
冷めた視線を向けられ一瞬、演技が下手過ぎて計画がバレたかと焦ったがそうでは無かったみたいだ。
「そんなの2、3日あれば十分でしょ。それを何日も写真撮って。信じるって言っても限度があるでしょ」
「……そう、だな」
「まぁいいわ。確かに大事な話だったし、そろそろ私からも言わなきゃなって思ってたから」
再び時間を確認し、次の約束の時間が迫っている事が分かると御代の口調が早くなった。
「私、新しい彼氏出来たから。別れましょ」
「……なんで、こんな事」
「理由なんか無いけど、強いて言えば
「……そうか」
納得は出来ないが理由なんてどうでも良いオレは軽く聞き流す。大事なのは、御代と別れたという事実だけ。
「じゃ、私もう行くから」
和哉と10時30分に近くの公園で会う約束をしているから時間が無いのは知っている。だけど曖昧なままで終わるのは良くない。
「別れよう、御代」
「……私が言ったんだからそれは決定事項。あなたの返事なんてどうでもいいから」
鞄を持ちソファから立ち上がると、最後に、と続けた。
「もう連絡してきたり、ストーカー紛いな事、しないでよね」
「するわけないだろ」
「……安心した」
御代がファミレスから出るのを見届けると、全身を脱力感が襲ってきた。計画に要した時間の割にあっさりと終わった結末に肩透かし感があるのが否めないが、それでも結果は計画通り。オレたちの望むハッピーエンドだ。
*
御代と過ごす時間は苦痛でしかなかった。
彼女はとても我儘で、拒否する事を許されない命令をされたり、彼女の意に介した行動をして怒られた事も1度や2度じゃない。
彼女の豹変にすぐに別れを切り出そうとしたが、しかし、出来ない事に気が付いた。オレたちの関係はオレの告白によって始まったからだ。
表向きは正確に問題のない、寧ろみんなから好かれている御代は当然友達が多い。オレが御代の裏の顔を暴露しても信じて貰えず、自分から告白しておいて虚言で彼女を陥れようとした、なんて最悪なレッテルを貼られれば別れる事に成功しても残りの学校生活が地獄に変わる……それだけは避けなければならなかった。
だから、御代から別れを切り出させることにしたのだ。
この計画に参加してくれた和哉にお礼と報告をするべく、メッセージを送る。
『無事に終わったよ。これでオレは自由だ』
すぐに既読が付き、返信が来た。
『俺の努力が無駄にならなくて良かったよ』
『本当、和哉のおかげだよ。ありがとうな!約束通り、カラオケで打ち上げな!』
『あぁ、約束通りお前の奢りだからな。報酬としては安いけど、まぁ友達割引って事で勘弁してやるよ』
『助かる。あ、もうすぐ紗代がそっちに行くと思うから、和哉も頑張ってな』
『おう!ちゃちゃっと別れてくるぜ!』
最後にもう一度『頑張れ』とメッセージを送ってスマホをポケットにしまう。そろそろオレも移動しないと、ここは和哉と御代の集合場所である公園から近すぎる。
ソファから立ち上がりレジで2人分の会計を済ませ、ファミレスを後にした。
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