我ら、YOUMA!西ケ丘高校支部がゆくっ!!

Omochi

第1話

 5月。

 4月から始まるゴールデンウィークという休暇を引き継ぎ、新社会人や受験生を休ませ一息つかせた後に猛烈な暑さを生み出し人々を苦しめるまるでツンデレのような月。


 そんな月のデレの部分だけ過ぎ去ってしまった、2027年5月8日へと謎の原因によってタイムスリップをしてしまったようだ。


 言っておくがトラックに轢き殺されたとか線路に突き飛ばされたとか青いタヌキの誘いとかが原因で時間をトラベルしたわけではない。まず心当たりが何もない。


 ではなぜそんな馬鹿げた結論に至ったのかというと自分が記憶として持っているのは2021年6月17日。夜7時頃に自炊用の食料を買いにスーパーへと向かう道中まで。

 気が付けば自分のベッドの上で寝ころんでいたのだ。6年後のな。


 当初は記憶障害か何かではと疑ったが、スマホのカメラで見た自分の容姿に一切の変化が見られない事やブラウザを開いてニュースを見てみたら『本日2027年5月8日』と書かれてあり、Aphone18今月販売!と広告が出てくる。


 今、俺の持ってる2021年に発売されたこのスマホ、Aphone12がもう過去の遺物となってしまっているのだ。


 さらには特撮ヒーローが全く別の物に世代交代しているし、ハンター×バンカーという漫画がいつの間にやら連載を再開してい最終回間際になっているのだから、タイムスリップをしてしまったという事実を認めるほかないだろう。


 さて、ここまであーだこーだ語ってきた訳だが、これから俺はどうすればいいのだろう?


 見た目は年を取ってはいないが、実に6年もの時間が経過してしまっているのだ。

 年齢的に言えば2021年に高校二年生で16歳だった俺は今、戸籍的には22歳になっている。てことは大学四年生のはず。留年や浪人をしてなければだけど。まぁ仕事をしている可能性もあるけどな。


 ん?てことはじゃあ俺は今から飛び級のキャンパスライフ、もしくは全く知らない職場に働きに行かなきゃいけないってことか?


 ……冗談じゃないぞ。それは。


 大学だったらサボったとしてもまだ許されるだろうが仮に働いていたして、業務をすっぽかすことになったらこれからの俺の生活に支障が出てしまう。


 色々考えた末、とりあえずまずは6年後の俺の部屋がどうなっているのか、身辺調査をしてみるとしよう。


 大学か仕事の場所についての情報があるかもしれないしな。


 とりあえず今いる自分の部屋には変化が全くと言っていいほどみられない。本棚に飾っているプラモや特撮ヒーローのフィギュアが増えているということもなく、物のレイアウトも変わっていない。


 一通り軽く見終え、続いてキッチンを調査してみる用具の場所も全部変わっていない。これなら大丈夫だろうとちょっと不安に思っていた冷蔵庫を開けてみれば、賞味期限が2021年と書かれている腐りきった食材たちが当時のまま入っていた。


 急いでゴミ袋へとそれらを鼻をつまみながら放り込んで、きつく袋の口を閉める。

 最悪な気分になりながら、次にドアを開けてダイニングルームに入っていく。


 ……俺の6年ってのはここまで変化がない物なのか?


 何一つ、変わっていない。机の位置も地面に直接置かれたテレビも張られたアニメのポスターも何もかもがそのまんまだ。


 流石にここまでくると少しながらも恐怖を感じてくる。

 どうなってんだこれ?なんでこんなに変わってないんだ?と怪訝に思いながら最後に残った場所、クローゼットの前に立つ。


 なぜか緊張している手でゆっくりと戸を開け中を見てみると、唯一変化している物があった。


 制服だ。


 自分の通っていた成都高校の制服は、紺を基調にした学ランと黒のズボン、刺繡が胸ポケットに入った白のシャツと黒のネクタイだった。

 だがそれらが置いてあった場所にすり替わるようにワインレッド色のブレザーと白ではあるが刺繍のないシャツと緑色のネクタイ、灰色のズボンがあるのだ。


 これだ、と直感的に感じブレザーとズボンを手に持ってポケットを漁ってみる。すると中から一枚、紙が落ちる。


 そこには自分の写った証明写真が貼られており、『第1学年3組 香坂五木。学校名 西ケ丘高校。有効期限2030年3月31日迄』と書かれていた。


 これらの要素から分かる通りどうやら俺は西ケ丘高校というとこの壱学年部の生徒となっているらしい。


 意味が分からない。というのが率直な感想だ。


 まずどこだこの西ケ丘高校という場所は?そしてなぜ高校一年生と学年が一つ下がっているのだ?学校が変わっているのだ?


 頭が痛くなってきた。なんでこんなことになっているんだよ、くそっ。


 ……とりあえず、行くしかないか。ここに。


 現在時刻は朝8時。スマホで場所を調べてみたところ、ここからの所要時間はおおよそ30分程度。恐らくではあるがホームルームが始まる前には到着できるだろう。

 

 友達が居なきゃいいんだけどな。などと不安要素を考えながらも制服を着始め、まだ見ぬクラスメイトたちのいる学校へと向かうのだった。





「お、香坂。珍しいじゃん、この時間に来るなんて」


 靴箱の前で自分の名前を探していると、俺の名前を呼びながら駆けてくる足音が聞こえてきた。


 ここに着いて早々、ものの数秒で俺の恐れていた事態が具現化して現れた。一体誰なんだこの天パは。

 

「あーちょっと寝坊してな」

「そうか。ま、さっさと行こうぜ。後ちょっとでチャイム鳴るし」

「おう」


 適当に受け流し、ようやく見つけた我が名の書かれた靴を取り出し履き替えると、俺と天パは遅刻を防ぐために廊下をダッシュする。よし、この天パの後ろを着いていけば教室に差し支えなく入ることができる。


 と、数歩前を行く天パが勢いよく教室のドアを開けたタイミングで、キンコンとチャイムが校内に鳴り響く。当然、あいつの後ろに居た俺は遅刻となってしまった。


 ワンテンポ遅れて俺も中に駆け込むと、教卓に両手をつけて立っている白衣を着た女性の先生と視線がかち合った。


 この人の事は全く知らないが、少々ご立腹であるということを感じることはできた。


「香坂、遅刻だ。教室の外で立ってろ。関口、お前も席に着けてなかっただろ。外で仲良くしてろ」

「え~。そりゃないでしょ」

「いいから早くしろ」


 両手を使って無罪をアピールするが、怒りを孕んでいる先生の声によって酌量の暇すら与えられずに外に出ていくしか、天パにはできないようだった。




 


 

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