63.小さな惑星
それから約一ヵ月後、叶依は高校を卒業し、寮を出る日がやって来た。
「私もこのままここに居させてあげたいけど、来年も入寮希望者が多くて部屋を取れないのよ。うちで良ければ置いてあげるけど、あいにく狭くてね」
荷物が多いのと転居先が決まらないのとで、なかなか寮を出れずにいたけれど。
寮母も叶依の事情はよく知っているので、置いてほしかったけれど。
「マンション借りて住むのもお金ないし……寮母さんにも借金してんのに……」
「じゃ、俺んち来るの決定?」
「うん……っていうか、既に夫婦なんよな……」
叶依が伸尋の家に移ることは、卒業一週間前に決定していた。他の生徒と違って叶依は荷物が異様に多かったため、その頃から荷物は徐々に伸尋の家に運び込まれていた。
「あのさぁ……前は空いてる部屋に入ってもらうって言ってたけど、荷物入れたら……足の踏み場……」
「無いなぁ……ゴメンこんないっぱい……」
「叶依ちゃん」
伸尋の祖母、タヱ子の声がした。
「悪いんやけど、伸尋と一緒の部屋でいいかなぁ? 別に広い部屋でもないんやけど……他は仏間しかないからねぇ……」
「あ、良いです良いです。あの、北海道でも同じ部屋だったんで……」
一昨年の十二月にラジオに出た時も、二人は同じ部屋で過ごしていた。
お正月に叶依がここに泊まりにきたときは、いま荷物でいっぱいになっている部屋を借りていた。もちろん、伸尋の祖父母の希望だった。
「そういえば、あんたら夫婦やったなぁ。ははは」
その晩。
「伸尋には、お世話になりっぱなしやな……」
「そうか?」
既に寝る準備は整っているけれど、眠れない二人。
荷物を運んで疲れているのに、寝たくない二人。
「うん。だって、そもそも、伸尋が冒険に誘ってくれてなかったら、今ここにいないもん」
「冒険? ……ああ、あの穴か」
「こないだだって、命を救ってくれたし。惑星に帰る気になれたのも、伸尋が私の体調を心配してくれたから……。ありがとう」
叶依はお礼を言いながら伸尋を抱きしめた。
「えっ、ちょっと、叶依」
急なことに驚いて、伸尋は少し困惑したらしい。
「もー、こんなんでビックリしたらあかんやろー? 王様やのに。夫婦やし?」
対応に困る伸尋と、からかって笑う叶依。
年上の海輝との付き合いがあった分、叶依のほうが少し上手らしい。
「楽しみやなぁ。明日からは毎日、伸尋と一緒。何しようかな」
「……全部したら良いやん。可能性は無限やろ、特に俺ら」
未来はそこにあるのではなく、自分たちで作りだすもの。
そう信じて叶依と伸尋は、学生生活にピリオドを打った。
窓の外には小さな惑星が、二人の未知を照らし出していた。
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