62.いつもの仲間
「それで、もうずっとこっちで生活してて良いことになってん。何かの式とかある時は戻らなあかんみたいやけど」
「じゃあさ、おまえらの子供はどうなんの?」
いつからか、話の輪に采が加わっていた。
「子供? なんかもう……この歳で夫婦とか子持ちとか……」
「あ、そういえば言ってなかったっけ? 俺な、おまえのおっちゃん──元王様に頼んで決まりとかいろいろ変えてもらってん」
「うそぉ? 伸尋が?」
「そんなビックリすんなよ。それで──形だけは今は俺が王になってるけど、これからも叶依の親が治めるみたいやで。俺らはあの人らがもうあかんようになったら戻って来て継いでくれたらいいって」
「ふうん……あ、LINE入ってる……うわ、マネージャーや──ん?“昨日、冬樹君が『叶依ちゃんは海外旅行行ってて日本にいない』って言ってたんだけど、嘘よねぇ? 明後日、広島でコンサートあるのに、日本にいるでしょ? もし海外なら今すぐ戻って来てぇ~”……冬樹……確かに……日本にはおらんかったけど……“日本にいます”……って、明後日、広島? 忘れてた! え? ちゃう、うわー、急に予定入ってる! そうやソロ辞めたのはなかったことになったんや……」
「なぁ叶依、そのLINE続きあるで」
横から画面を見ていた夜宵が叶依に言った。
「え? あ……ん? “そのコンサートの二日後に予定してた、札幌でのPASTUREのアルバムのインストアライブにも欠席って聞いたんだけど……行くんでしょ?”──“行きます……冬樹にあとで電話しとく……”──ってPASTUREのアルバムも出すの決まったんや……レコーディングしたっけ? 年末にやった気もするけど……やったんかな……て、明後日、広島?」
「昨日、叶依のホームページ見に行ったら、スケジュールのところに今言ってたやつ全部書いてあったで」
海帆が言った。
「明後日って……私だけ?」
「うん。終わったらそのまま札幌直行って」
「新年早々……あ~あ、明日って土曜?」
「うん。休みやで」
「そんじゃ、ゆっくり出来るな。まだ戻ってからギター触ってないし……イテッ──」
珠里亜に苛められたのではなく、別の痛みを感じて叶依は自分の左手を見た。
薬指にはめられたリングが紅い光を放っていた。
これは、伸尋がサインを送っている徴だった。
『早く帰ろ。話あるから……』
「うち何もしてないで!」
珠里亜がペットボトルを振りまわしながら叫んだ。
「うん……珠里亜ちゃうで。あの、朝見せたって言うか、触らした指輪あるやん。あれ実はただの指輪じゃなくてさぁ。何かあったら光るんやん。それも場合によって色違うんやけど……で……あの……そろそろ帰るわ」
叶依は笑いながら横歩きして伸尋に近付き、教室を出ようとした。
「なんかさぁ、ほんま……おまえら……」
史は笑っていた。というより、ニヤニヤしていた。
その場にいた全員が、史は『仲良すぎ』等という言葉を言うと思っていて、史自身もそのつもりだったけれど。
「気ぃつけて帰れよ」
それだけ言って叶依と伸尋を見送った。
二人は仲良く手を繋いで、嬉しそうに帰っていった。
「俺さぁ、中学……小学校からか。ずっと伸尋と一緒やったけどな──あんな嬉しそうな伸尋、初めて見た」
二人が帰ったあとの教室で史はそう言った。
「私も。叶依とは高校入ってからやけど……あんな叶依見たことない」
友人たちの中で叶依との付き合いが一番長いのは海帆だった。
「あいつらが地球人じゃないって、いまだに信じられへんけどな……」
「うん……。まぁ、良かったやん、何も変わらんみたいで」
叶依と伸尋がステラ・ルークスの王位を継いだことで、特に大きな変化はなかったけれど。
PASTUREのインストアライブのために叶依が海輝の実家に泊まっても、伸尋が今までのような不安を示すことはなかった。二人の左手の指輪は頻繁に紅い光を放っていたし、叶依は時間があれば伸尋に連絡をした。
叶依と伸尋は本当に、お互いを信じていた。
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