61.もとの世界へ
「え……? 帰って良いって……?」
惑星に戻って五日目の夕方、叶依の父親・ラックは、今まで通り地球で暮らして良い、と二人に言った。
「どういうこと? ここで──惑星のこととか王妃のこととか、いろいろ覚えさせられて……」
「何のために……」
ようやく惑星の生活にも慣れてきた頃に帰れと言われた。
やはり地球育ちでは惑星を維持することができないのか。
自分たちは来るだけ無駄だったのか。
「そうじゃないのよ。私たち今まで──あなたたちが地球で育ってどういうことになるのか、想像してなかったのよ。だから、十八になればすんなり戻って来てくれると思ってたんだけど、そうじゃなかったでしょ。叶依──あなた、自殺しようとしたわよね。あれがなかったら、私たちもっとあなたを苦しめてた。十五年間も地球で育って、今更こっちに戻れだなんて、無理な話なのよね。折角これから頑張ろうとしてたのに」
アルラは話を中断し、叶依の左手を自分の両手で掴んだ。
「──なに?」
叶依の手を静かに離し、
「動かしてごらんなさい」
「え?」
「動かなくなっちゃってたんでしょ。でももう、動くから」
動きがおかしくなっていた叶依の左手は、それからどんどん不自然になり、クリスマスパーティーの頃にはほとんど動かなくなっていた。けれど母親に何かされた今──。
「え……動いてる……」
叶依の左手は、元通りの姿を取り戻していた。
「でももう……ギター使うこと無いし……二人にも……言ってあるし……」
「その件に関しては、こちらで何もなかったように処理しておきました」
「──それって、私がソロ辞めたのはなかったことになってるってこと?」
「ええ。ソロ活動も、PASTUREも、今まで通り続けられるのよ。ただ、あなたたちがここの人間だって知らない人たちの記憶を変えただけだから、知ってる人たちの記憶では叶依はソロを辞めたことになってるけど……」
「伸尋、おまえもここで惑星を治めるよりはバスケを続けたいだろう。おまえたちはまだまだこれからだ。やりたいことをやってくれ。ただし、やるからには中途半端にはするな。もし力を出しきってなかったりしたら、すぐにでも戻ってきてもらうぞ」
ラックは二人に笑顔でそう言った。そしてお互いに相手の支えになることを約束させ、二人をもとの世界へ送り届けた。
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