51.すべての辻褄

 叶依が屋上から飛び降りたことは、すでにニュースになっていた。

 学校には報道陣が詰めかけ、上空ではヘリコプターも飛んでいた。

 すっかり落ち込んでしまっている伸尋のところにOCEAN TREEがやって来たのは、事件から数日後だった。

「叶依は、自分で言うから伸尋には言うな、って俺らに口止めしてたんだけど……やっぱ、言わないとダメだと思って」

 重い口を開いたのは、冬樹が先だった。

「今年の一月だったかな? 話があるっていうから、冬樹に連れてきてもらったんだけど……そのとき叶依、自分は王女だ、って言ったんだよ。伸尋のことも王子だって。冗談かと思って笑ったんだけど、叶依が笑ってなくてさ」

「どっちかというと泣いてたね」

「うん。それで、ちゃんと聞いたら──前、北海道に行ったときおかしかったの覚えてる? あのときの話になって」

「女の人の声が聞こえてた、ってね。あとで、その人は自分たちの母親だって分かったらしいんだけど……叶依に力が出てきたとか言ってたらしいよ。ギターのスキルじゃなくて、離れた親と話す力」

「……俺の、母親?」

「ラジオのあと、部屋で聞かなかった? 自分たちが何て呼び合ってたか」

「──言ってた」

「それを教えてくれたのも、その女の人だって」

「じゃ──叶依って──」

「叶依は、地球の人間じゃない。穴に落ちる前に住んでた惑星の王女らしい。伸尋は……王家じゃないけど次期王になるのは間違いないって。あと……」

 海輝が黙ってしまったので、代わりに冬樹が続けた。

「こないだも、話聞いてたんだけど……女の人の声が聞こえる時間が増えて、更に、他の人の記憶まで見るようになったらしくて。夢じゃなくて現実の世界でね。僕らが聞いたのは、修学旅行で北海道行ったときに、札幌では僕らの記憶が見えてたり、美瑛では伸尋の記憶が見えてたり。その記憶を聞いたら……その通りのことしてたんだよ、僕ら。ただその間は、自分の本当の記憶が全然ないらしいんだけど」

 伸尋は、修学旅行から帰った夜のことを思い出した。

 叶依が電話をかけてきて、何をしていたのか教えて欲しいと言っていた。

「だから、それが嫌で……飛び降りたのかな、って──。十八歳になったら、生まれたところに戻らないといけないんだって。それは絶対嫌だって言ってたけど……。伸尋に言う前に飛び降りちゃって、よっぽど辛かったんだよ」


 二人が言っていることを伸尋が完全に理解するには、それから丸一日かかった。

 自分はどこかの惑星の王子で、叶依は王女。

 そう考えると、『星』のことも辻褄が合う気がした。

 産まれた時に親から授けられ、身につけたまま穴に落ちて地球にやって来る。落ちたショックで何もかも忘れ、大きくなってからその存在を思い出す。

「でも……なんで幼馴染じゃないん……?」

 北海道でも叶依が同じことを言っていたけれど、結局その答えを出すことは出来なかった。

 何でもいいから、とにかく叶依と話がしたい。

 そう願いながら伸尋は、ピンバッヂを机の引き出しからシャツのポケットに移した。

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