41.記憶の裏側Ⅱ -side OCEAN TREE-

 翌日、海輝と冬樹は車で出かけた。

 叶依は「友達と呑みに行く」と聞いていたけれど、その前に二人は小樽のとある工場に寄った。

「アザラシの形のオルゴール作って欲しいんだけど……曲はsealで」

 硝子職人のところにやってきた海輝は、開口一番にそう言った。

 職人は、海輝の祖父の友人だった。

「そんな急に言われてもねぇ……何かあったのかい?」

「いや……別に……俺、秘密主義だから……。いつ頃出来そう?」

「sealはいっぱいあるけどねぇ……。まぁ、三・四日あれば出来るよ」

 硝子職人に五日後くらいには完成させるように頼み、二人は友人の家へ向かった。

「海輝──何かあったの? オルゴールどうするの?」

 冬樹はそれとなく聞いてみたけれど、海輝は何も答えなかった。

 二人が家に帰ったのは翌日の午後のことだった。

「おかえりー」

 家の中では叶依が一人で待っていた。洋は仕事で朝から留守で、景子もパートに出ていた。

「あっそうか、今日二人ともいなかったんだ……ずっと一人で退屈だったんじゃない?」

 海輝が申し訳なさそうに言った。

「ううん。お母さん出掛けてったの昼前やし、朝はその辺散歩してたし。この辺いいなぁ。空気きれいで……」

 そう言いながら階段を上る叶依の後ろ姿を、海輝はじっと見つめていた。それを見て冬樹は、オルゴールの謎が解けた気がした。というより、確信した。


 そして迎えたラジオの夜──。

 二人は叶依に出演するか聞いたけれど、叶依の返事はNOだった。寂しくはあったけれど、海輝にはそのほうが都合が良かった。

 ラジオを終えて二人が出てきたとき、そこに叶依の姿はなかった。ADの夏子が連れて帰ったと、マネージャーの中森満が言った。

「海輝……どうすんだよ?」

「──言うから。ちゃんと」

 帰りの車の中で、海輝と冬樹の会話はこれだけで。

 翌朝、二人が朝食に降りてきた時、叶依は既に席に座っていたけれど、海輝はもちろん、冬樹とも顔をあわせようとはしなかった。いつもは片付けを手伝っていたけれど、それは景子に任せて、早くに部屋へ戻ってしまった。

 自分の朝食が終わってしばらく経ってから、海輝は一人で叶依のいる部屋へ向かった。


 ──そこから先は、叶依もよく覚えている場面だった。

 昨夜のラジオでの発言を謝られ、オルゴールを渡される。

 叶依が海輝を拒否する理由はひとつもなかった。

 黙って叶依はそれを受け取り、包みを開けて現れたアザラシを見て、照れくさそうに笑った。

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