35.切れない関係
そして迎えた三学期始業式――。
二学期の終業式の日とほとんど同じ時刻に、叶依は学校に到着した。
誰もいない玄関を抜けて誰もいない階段を上り、誰もいない廊下を歩いて電気が点いていな自分の教室のドアを開けた。
「おっす」
誰もいないと思い込んでいた。教室の奥には窓にもたれて史が立っていた。
「おはよう叶依」
「え?」
暗くてよくわからなかったけれど、史の横には海帆も立っていた。
「どうしたん? いつもより早いんちゃん? 何かあったん?」
自分の机に鞄をかけてから、叶依は二人の横に並んだ。
「おまえさぁ、ほんまのこと言えよ」
「うん……?」
「ほんまに伸尋のこと好きなんか?」
史のその質問に、叶依は一瞬、息をのんだ。
「うん……こないだも泊まりに行ったし……なんで?」
「それやったらいいけど……なんか、海輝の時のほうが楽しそうに見えるから」
「――そう思う?」
「めっちゃ思う」
史と海帆は口をそろえて言った。
「……やっぱりかぁ」
叶依がそう言うことを、二人は想定していたのだろうか。
「伸尋のことは好きやけど、まだ仕事とかでしょっちゅう海輝に会うやん。これからもっと増えるやろうし。だから、海輝とは仲良くし続けると思う。でも、伸尋のこと忘れるわけじゃないし……切りたくても切られへんやろうし」
「どういうこと?」
「はっきりとは言われへんけど……星のことで。大変なことになるかもしれん」
遠くのほうから他の生徒たちの声が聞こえてきて、三人の会話は一旦途切れた。そして間もなく伸尋も登校し、四日に行われた試合の話をしているうちに、朝のホームルームが始まった。
放課後の教室でいつもの七人が集まって雑談していた時、突然、叶依の携帯が鳴った。長く鳴り続けているので、どうやら電話らしい。
「誰やろ? ……あっ、マネージャーや──もしもし……え? あっ! すいません!」
(どうしたんやろ?)
「はい、すぐ行きます、はい、すいま、え……? はい、あ、……びっくりした……。うん……今……はい、わかりました……」
叶依が電話を終えると、友人たちの質問が待っていた。
「どうしたん?」
「今日、テレビあったの忘れててん」
「もう間に合わんの?」
「ううん。さっきのは冗談やって。三時に迎えに来るみたい」
「何のテレビ?」
「Mツボ。生放送の」
「あれ? じゃあ明日、学校休むん? Mツボって夜遅いやろ?」
人気番組ではあるけれど、開始は二十二時十五分。終わってすぐに寝たとしても、翌朝は絶対辛い。学校は大阪、収録は東京だ。
「――大丈夫。五時間目までには来るから」
「あんまり無理すんなよ。一日ぐらい休めよ」
「じゃあ明日の授業、戻ってきてから伸尋してくれる?」
「えっ……」
予想外の叶依の発言に、伸尋は戸惑うしかなかった。
叶依はふふふと笑って、
「学校来るよ。間に合わんかったところだけ教えて。じゃ、悪いけど先帰るな。いろいろ準備あるから。あ、Mツボ見てよ。新曲やるから」
「あいつら出んの?」
「私だけ。じゃ、見てな。バイバーイ」
叶依は小走りに帰っていった。
その直後に史が呟いた。
「あいつ、いつか倒れるで」
「おまえもそう思う?」
伸尋だった。
「ラジオの時からなんかおかしいと思ってたんやけど」
伸尋は、北海道での出来事を皆に話した。
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