34.叶依の部屋

 八畳ほどの叶依の部屋の中央で、叶依と友人たちは小さな机を囲んで座っていた。叶依の両サイドは、珠里亜と伸尋だ。

「みんな一番わからんかったのってさ、アレやろ? 星がどうのってやつ」

「そうそうそれ! うちも全っ然わからんかってん! その星ってなんかめっちゃ神秘的じゃない?」

 珠里亜は何故か目を輝かせていた。

「見せたろか?」

 叶依が制服のポケットからペンダントを出そうとすると、

「待てよ。この前叶依、あんまり見せられへんとか言ってたやん。いいんか? そんな──」

 ペンダントを出そうとポケットに伸ばした叶依の右腕を、伸尋はしっかり掴んでいた。

「そう……見せられへん……ごめん、絶対出せへんから、大丈夫」

 伸尋は叶依の腕をつかんでいた左手をゆっくり離した。ポケットから戻した叶依の手には、本当に何も握られていなかった。

「ラジオで見せてなかった?」

 夜宵が呟いた。

「あの時は見せた。でも、今は見せられへん。いつかは見せれると思うけど……来年、三年の冬になるまで待って」

「叶依……? 来年って?」

 伸尋は眉をひそめた。どうして叶依が見せると言ったのかわからない。そしてどうして冬なのか。

「星以外のことなら良いん?」

 采が口を開いた。

「いいよ。なに?」

「OCEAN TREEが歌えるとか言ってたやん。あれ――」

 突然、伸尋が「うっ」と吹き出した。

「あれな、二人がデビュー前にライブハウスで歌いまくってた時、歌いすぎて声出んようになったらしい」

「そう……。で、デビューも決まってんのにどうしようって時に、例の大川さんに『ギターだけでもうまいからそれでやってみたら?』って言われて、それでやったら見事に売れたから、ずっとギターでしててんて」

「じゃ、もともと歌あったん? sealって」

「うん。そのもともとのsealとPASTURE版sealもPASTUREのアルバムに入れるから」

 しばらくしてみんなが帰ろうとした頃、叶依は珠里亜だけ残るように頼んだ。そしてみんながいなくなってから、とんでもないことをお願いした。

「ええ? ぱすちゃあの歌の歌詞?」

「ちょっと前に珠里亜が詩書いてるって話したんやん。そしたら昨日電話かかってきて……お願いお願い。今度また会わしたるからさぁ」

「うーん……別に会わんでも良いけど……。やるよ」

「ほんまに? じゃ、電話するわ」

「え? 今?」

 と、珠里亜が驚いている間に叶依は海輝に電話をかけていた。

「あ、れ……? 冬樹? なんで?」

 二人で車で移動中で、海輝が運転しているらしい。

「じゃあ冬樹でいいや。珠里亜、やってくれるって。……うん……え……? 珠里亜? いるけど……」

 冬樹は珠里亜にお礼が言いたいらしい。

「なんか、出たくないって……うん……わかった……はーい。ばいばーい」

「……何て?」

「ありがとうやって。でもまた今度会いたいみたいやで。それよりさぁ、コンサートの練習しようよ。もうすぐあるやん」

「え? 今から?」

「うそうそ。もうこんな時間やし。家で歌っといて」

「うん……じゃ、クリスマスな」

 そうして迎えたクリスマスコンサートはどこの学校も大成功を収め、最後の一曲は叶依作詞作曲のもので、会場全体での大合唱になった。


 これなら今年は気持ちよく締めくくることが出来ると思ったけれど、ただ一つ。

 叶依に関することのラジオでの大暴露が、いつまでも世間を騒がせていた。

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