33.二学期終業式

 クリスマスまであとわずかに迫った、二学期終業式の日の朝。叶依はいつも通りに起きていつもの制服を着て、いつもの道を通って学校へ行った。

 教室にはまだ誰もいなかった。

 整然と並べられた机に寂しさを感じ、叶依は溜息をついた。

(でも何かと楽しいクラスやったよな……。時織とか夜宵とか、珠里亜も……海帆と史が同じクラスで……伸尋とも知り合えてよかったな。球技大会……デビューしたのってあの頃やったっけ。でも、まさかあのとき北海道で出会うとは思わんかったなー。でも出会ってなかったら、あんなこともなくって……今もないんよな……)

 ガラッ―――

 突然ドアが開いた。鷲田采が立っていた。

「……おはよう」

「おう。史まだ?」

「史? まだ見てないけど? もうすぐ来るんちゃう?」

「ふーん。あ、ラジオ聴いたで。頑張れよ、いろいろ」

「うん……?」

「じゃあな」

 それだけ言って、采は叶依の前から姿を消した。

 教室は再び静かになった。

(いろいろ、か……。ちゃんと言わなな……それにしても、采かなり久しぶり)

「おっす、叶依」

「あ、史おはよう。さっき采が探してたで」

「今そこで会った。それよりラジオ聴いたで。あれほんまなん?」

「あれって? ラジオで言ったのは全部事実やで」

「――今日さ、あいつら連れておまえんち行っていい? 聞きたいこといっぱい出てきた」

「いいよ。あ、でもクラブあるから夕方になるけど」

「じゃあ、クラブ終わったらピロティーで待ってるわ」

「おーっす」

 叶依が答えるよりも先に、ドアのほうから伸尋の声がした。その後ろからは他の生徒の声も響いている。

「おう伸尋。聴いたで」

「あぁ――おはよう」

 微妙な笑顔で、伸尋は叶依を見つめながら言った。

「おはよう……」

 叶依も伸尋を見つめ返した。

「――んんん? なになに? 何かあったんか?」

「っ別に。そうや伸尋、今日、うち来れるやろ? ラジオのことみんなに詳しく説明せなあかんやん。クラブ終わってからピロティーで待ち合わせ予定なんやけど」

「うん……わかった」

「あっ、それとラジオのあとで言ってたやつあるやん。あれ誰にも言ったらあかんで。来る人には良いけど」

「おっけー……」

 やはり微妙ににやけながら自分の席に向かう伸尋を、後から史が追った。


 その日、予想はしていたけれど、やはり生徒たちの会話は伸尋と叶依のことが中心になっていた。ちょっとでもその近くを通ると呼び止められ、特に放課後、二人はなかなかクラブへ行くことが出来なかった。

 やっと辿り着けたクラブでも、まず叶依は部長であるにもかかわらず他の部員たちにラジオの事を問い詰められて練習が始まる気配はなかったし、伸尋も同じように特に先輩に捕まって、真剣に練習することはできなかった。


 一方、ターゲットのいないサッカー部でも──。

「なぁ史、あいつらどーなってんの?」

「叶依と伸尋か? よーわからんけど、本人が良かったらそれでいいんちゃん?」

「そうかぁ? でも叶依ってちょっと前まで海輝とおったんやろ? そんなすぐ吹っ切れるもんか? いくらなんでもさぁ。おまえの時もそうやったけど……」

「まぁ、あいつらにもいろいろあるんやろ。謎の多い二人やからよ」

 ボールを蹴りながら走っていく史の後ろで、キーパーの手袋をはめながら采は首を傾げていた。

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