32.すべての始まり

 その答えは、伸尋と叶依は、本当に王子と王女だから。

 二人ともステラ・ルークスで生まれ、ある日、穴に吸い込まれて地球にやってきた。二人を引き取った大人もまた、何年も前にステラ・ルークスで穴に吸い込まれた人間だった。

 初めは見つけた場所で二人育てようとしたけれど、身分の高さが負担になり、一人を離れたところで暮らす同じ境遇の者に預けた。だから、幼馴染にはならなかった。

 そしてお互い子供たちを普通の子として育て、本当はステラ・ルークスの王子・王女であって、いずれ戻らなければならない日が来ることは、その日が来るまで秘密にしておくと決めた。

 彼らは誰も、二人が持っていた守護星がどういうものなのか、全く知らなかった。

 それがすべての始まりだった。


 ふと、叶依は伸尋の視線を感じた。

「なに?」

「叶依さぁ、正月なんかあんの? テレビとか」

「ううん。今年はない。二人はこの辺でカウントダウンするらしいけど」

「じゃ……俺んち来いよ。正月ずっと一人なんやろ? 俺のおじいちゃんもおばあちゃんも叶依のこと知ってるし……誕生日やん」

 コンコン――

「良かった、まだ起きてて」

 ドアを開けて顔を出したのは冬樹だった。もちろん、その後ろには、海輝も立っていた。

 二人は叶依と伸尋が座るソファの前に、胡坐をかいて並んだ。

「明日、まだ帰らないんでしょ?」

 話しだしたのは冬樹だった。

「うん。まだ金曜日テレビに呼ばれてるから、帰るのは土曜日」

「じゃ、明日みんなでどっか行かない? 久々に休みが重なってるから」

「みんなって?」

「僕たち四人とあと、瑞穂ちゃんと満」

 指を折って数えながら海輝は言った。

「満って誰?」

 伸尋が叶依に聞いた。

「あ──まだ言ってなかったっけ。この、OCEAN TREEのマネージャーで、私のマネージャーと付き合ってる」

 叶依はOCEAN TREEを見て笑いながら言った。

「ふぅん……。ええ? それ──」

 伸尋の反応は、叶依の予想通りだった。

 叶依と海輝、瑞穂と満。

 どう考えても、すごい組み合わせだ。

「これも別れた理由の一つやけど」

「あのままで、それが公になってたらもう、業界とかマスコミとか大騒ぎでしょ? それだけは絶対避けたかったから……。それで、明日どう? どこに行くかはまだ決めてないんだけど」

「良いよ。行く」

 その後、明日の午前九時出発を決めてから、冬樹と海輝は部屋を出て行った。どこに行くのかは、寝ながら考えるらしい。


「それで叶依、さっきの話やけど」

「お正月に行って良いん? 悪くない?」

「俺が、誘ってんのもそうやけど……おじいちゃんとおばあちゃんが、叶依を呼びたがってんやん。正月やと思わんと、ただの誕生日のつもりで来てくれたら良いって」

「じゃ、行こうかなぁ。でも緊張するなぁ。ファァ……」

 思いっきり出そうになった欠伸あくびを、叶依は慌てて両手で押さえた。

「緊張って、まぁ、な……。いつも通りにしといてくれたらいいし。来るって言っといて良い?」

「うん。そうファァ──言っ……とい……」

 ドサッ。

 すべて言い終わるより早く、叶依は伸尋にもたれかかって眠りの世界に入っていった。

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