30.姫と悪人

「伸尋は?」

「えっ……俺も?」

「三人言って一人だけ言わないのもね。一応さ、有名になるし。何かあった?」

 冬樹が伸尋に白い歯を見せていた。

「いいこと、ではないんやけど……机の中片付けてたら、俺もよくわからんけど……星のマークのピンバッヂが出てきて、その星のところは――」

「その時によって光り方が違って、それは自分の気分と同じ」

 叶依だった。

 更に叶依は続けた。

「天気によって色も変わる――晴れなら赤、雨なら青、曇りなら黄色」

「なんで知ってんの?」

 伸尋が言おうとしていたことを、叶依は当てたらしい。

「私も持ってるもん。ピンバッヂじゃなくてペンダントやけど」

 叶依はポケットからペンダントを出して机の上に置いた。

「うわ、一緒やん」

 伸尋もポケットからピンバッヂを出した。それは本当に叶依のペンダントと、サイズもデザインも全く同じで、今日は黄色い光りが眩しいほどだった。

「叶依は──買ったの?」

 海輝が聞いた。

「ううん。物心付いた時には首にかかってた。学校行きだしてからは邪魔になるから外してポケットに入れてるって、あれ? 記憶あるやん」

「なんか……謎の多い二人ですね」

 冬樹がしみじみ言った。

「うん……。やっぱさ、伸尋はどこかの国の王子様なんじゃない? 叶依がお姫様、王女様で。それしかないよ」

「じゃあ何、海輝は姫を連れ去った悪人だったわけ?」

 冬樹が笑いながら海輝に言った。

「そ、そういう言い方ないでしょう。悪人って……俺、悪人?」

 顔をゆがませて、海輝は伸尋のほうを見る。

「別にー……悪人と思ったときは確かにあったけど」

「ほらっ」

「ぐあああぁぁぁ!」

 悲鳴に似た叫び声をあげ、両手で顔を隠しながら海輝は机に突っ伏した。

「いくら伸尋でも、海輝を悪く言ったら容赦せんで」

「え」

「だってお兄ちゃんやし」

「叶依はいったい、伸尋とこいつのどっちの味方してるわけ?」

「さぁー。どっちでも良いやん。それより、エンディングの時間になってますけど」

 すっかり消沈してしまっている海輝とは正反対の陽気な声で叶依は言った。

「本当だ。じゃあね、死んでる人は放っといて、曲のほういきましょうか。ということで、曲紹介お願いします」

「はい……。まだ死んでる……あ、起きた? では、十月十八日にリリースされたニューシングル、ウオタギラ、聴いてください」



「──はい、ウオタギラお聴きいただきましたけれど、大事なものを忘れてました。今日、ゲストで来ていただいた伸尋君からね、プレゼントです。来年の一月四日、日曜日に東京でバスケットボールの試合があるんですけども、そのチケットを十人の方にプレゼントです。で、試合に来てくれた人には、更に何かあるらしいんですが」

「僕の試合を見に来てくれた人には、この、叶依の、さっきかけたウオタギラの別バージョンをプレゼントします」

「はーい。先着百名様です。欲しい方はお早めに会場にお越しください。私いますから」

「それは……歌が入ってるんだよね?」

「うん。だから、ウオタギラの意味がわかります」

「ウオタギラって何語?」

「え? 冬樹、知らんかったっけ? 文化祭のとき言ったのに。海輝は覚えてる?」

「覚えてますよ。叶依が僕らにウオタギラ。……ではね、伸尋の試合が見たい! CDが欲しい! えー……その他……今日の内容のことをもっと詳しく聞き出したい……(笑)そういう方は、どしどし応募してください。見て損はないですよ。もし外れても当日券出るそうなんで、ぜひ会場へ行ってみてください」

「本当にこの子はかっこいいですよ。とにかくすごいです。どうして叶依が悪人のところに行ってたのかわからないね」

「それ、伸尋を褒めてるのか僕と叶依を責めてるのかどっちだよ?」

「さぁーどっちでしょうーということで、チケット希望の方は123-4567、pas-fm、火曜日、OCEAN TREEの『海の樹』プレゼント係までご応募ください。あとメールでも受け付けてます。それから叶依のホームページにアクセスしてる人は知ってると思うんですけど、実はそこでは昨日から受付始まってるんでね、そちらのほうにも行ってみて下さい。ってところで今日はそのウオタギラ別バージョンを聴きながらお別れです。来週もまた聴いてくださいね。バイバーイ」


 そんな冬樹の一方的な挨拶でラジオ番組は終了したけれど。

 もちろん、そのあとしばらく、四人の会話は終わらなかった。

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