29.PASTURE

「それよりさぁ」

 海輝は言葉を切って、叶依と伸尋を交互に見た。

「ちょっと気になってたんだけど、叶依と伸尋って、本っ当に双子とかじゃないの?」

「そう言われれば似てるね」

 春に何度されたかわからない質問を、二人はあの時とは違う気持ちで聞いた。

「それ、双子じゃないのは確かやけど……似てるよなぁ?」

「叶依はずっと一人暮らしやけど、俺、おじいちゃんとおばあちゃんと暮らしてるからさ、双子ではないと思う」

「私、高校入る前の記憶ってあんまりないんやけど……。気が付けば一人暮らしで友達もいて、ギターやってて……誰に育ててもらったんかな?」

「それ、アブなくない? 記憶喪失? 俺のー……妹に限ってそんな……」

「喪失じゃなくって、元々なかったかも」

 信じられない言葉を聞いて、男三人はギョッという顔で叶依を見た。

「だってさぁ、写真とかないもん」

「一枚も?」

「うん。あるのは、小さい時の……すごい、木とか花とかいっぱいあるところで走り回ってて、そのあと友達と、穴か何かに落ちた、っていう」

 それからどうなったのかは、全く覚えていない。

「その時の記憶だけ。伸尋は写真あんの?」

「うん……。産まれた時のはないけど、幼稚園あたりからずっとあるで」

「良いなぁ……。どこ行ったんやろ、私の記憶」

 頭を抱えて悩む叶依を見ながら、海輝は再びコーナーを変えようとしていた。その後の伸尋の反応も気になって、彼の様子も少しうかがっていた。

「そんな、記憶喪失の叶依と僕らOCEAN TREEから、お知らせがあります」

 海輝が言いだすのを聞いて、叶依は顔を上げた。

「はい、さっき話した夏のことがきっかけで、夏にだけ三人で活動することになりました」

「マジで?」

 驚いたのは、もちろん伸尋だ。

「はい。“PASTURE”です」

「そうなんですよ。パスチャーね。まだどういう風にするかは決めてないっていうか、決めないんだよね」

「うん」

 冬樹と叶依は同時にうなづいた。

「楽器はギターだけってのは確かなんだけど、ボーカルを誰にするかは曲によって変えようと思ってるんですよ」

「え? この二人って、歌ってたっけ?」

 伸尋はOCEAN TREEの過去を知らない。叶依が知ったのも、PASTURE結成が決まった時だったけれど。

「実は歌えるんですよ。それは後々、どこかで言いますよ」

 本来ならばここでゲストは退場してTOWに入るけれど、今日はスペシャルということで四人でのTOWになった。

 冬樹は相変わらず釣りが好きで、昨日の朝も洋さんと出かけて大漁で帰れたことが嬉しかった、と大喜びしていた。海輝は特に何もなく、曲が一つ出来たくらいだと言っていた。

「叶依は?」

「え? 私も?」

「一応、PASTUREメンバーとして」

「いま冬やのに……。うーん……昨日、家族と再会できたことかな?」

 叶依と伸尋が北海道に到着したのは、月曜日の夕方だった。二人は叶依が前いた部屋に泊めてもらい、今晩のラジオに備えて今朝は海輝と過ごしていた。冬樹はもちろん、釣りに出かけていた。

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